◆2011年秋 第4弾 王道、芸術の秋

■礒江毅=グスタボ・礒江展「真実の写実絵画」 
 2011年9月11日(日)@練馬区立美術館
愛情ではないのです。冷徹なまでの時間の凍りつけ、解剖の眼差し。観る者にもその過程を強要する凄みがありました。写実絵画といえば、ホキ美術館で得た一種のアレルギーがあったのですが、視ることとはどういうことか考えさせられる「真実の写実」に相応しい作品と哲学でした。
「表現するのは自分でなく、対象自体であるということです。―中略―物は見ようとしたときに初めて見えてくるのです。」(2004年)
練馬区立美術館は駅前の美術館。部活帰りの中学生から、つっかけ姿のおばさんまで、地元の人がたくさんで、おしゃれな人なんて一人もいません。美術館というよりは公民館なのですね、こういう感覚は初めて。


横浜トリエンナーレ
 2011年9月18日、10月26日
全体におっきめの文化祭という印象。
・世の中、メッセージの「ごった煮」だ。でも人の受容体は限られていると思う。少し疲れた。単に美しくそれだけで価値のあるもの、例えば森や光、余白の空間に逃げたくなる。岡潔のいう「間違った自我」「小我」。
・倉庫会場はとくに文化祭的。作品各々に罪はないと思うが、となるとキュレーションの問題。アートの見方は自由というもよし、そもそもデュシャン以降なにがなんだかわからないけれど、ある方向付けはあってしかるべきか。(自分の雑文に対しても一定の反省。)
横浜美術館の会場は見せ方(昔の作品と現代の作品の対置、空間の使い方、作品のテーマごとの分類)が明快。過去の名作の重みもわりと軽く感ぜられたのは面白いく、キュレーション、編集は暴力かもしれないと感じた。もしくは「人の想像(創造)力、潜在意識なんて所詮大差ない」というあっけらかんとした潔さかもしれない。
・駅舎のようだ。中学以来ひさびさに訪れた横浜美術館は、なかなか美術館然としていた。人々がいて、ものがあって違和感が全くない。なるほどオルセー美術館に近いのだろうか。私が一番好きな空間のある美術館、オルセー。パリにいきたい。


■神野千恵 ピアノリサイタル
 2011年10月15日(土)@カワイ表参道「パウゼ」
本当に素晴らしい。演奏を聴いている2時間、本当になにも考えなかったです。そんな時間をすごしたのは一体いつぶりでしょう。直接に心身に訴えかける波動を感じました。それほどの深い芸術に生きる女性が、このがさがさした東京でどう日常を過ごしうるのか不思議でなりません。やはりプロ、音楽と生活の切り替えを心得ているのでしょうか。
演奏は主にドビュッシーラフマニノフ前奏曲。音楽素人の私にも飽きがなく、ちょっとした旅のように様々な情景が浮かびました。続くショパンも素晴らしい。アンコールはあまりに有名な2曲で、ちょっと強い残り香。


■エル・タンゴ2011 カンバタンゴ楽団
 2011年11月5日(土)@茅ヶ崎市民文化会館
日本の男たちよ、タンゴにきけ!女性にふられて自殺しちゃうとか(曲は案外明るい)、賭け事もしない旦那に愛想をつかす奥さんとか、笑いがこみあげるほどにひたむきで打算のない愛。なじみの薄いタンゴですが、タンゴらしいタンゴあり、もの哀しい曲あり、演歌風にこぶしの利いた歌もあり、一曲一曲テンポよく、とても楽しいコンサート。
気に入った曲。
・吟遊詩人 Payadora 
タンゴらしいタンゴ。
・忘却 Oblivion 
バンドネオンの音の粘りが活かされた曲。高音でか細い旋律は腕と感性のみせどころ。
・ラ・カテドラル La Catedral
こちらはソロギター。クラシックギターの音は、いつもちょっとぬるめのお湯に浸かった気分にさせてくれる。心地よい。