2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

文章読本 谷崎潤一郎 ☆☆

言葉は進化し、退化します。昭和九年に書かれた「文章読本」にはミイラ化した指摘も見られます。国語=日本を考える際、日本と西欧、和文と漢文の対置は、明解ですが、ややうっとうしい。とはいえ、反省しました。正確に表現しようとするあまり、饒舌になる…

手鎖心中 井上ひさし ☆

井上ひさしっぷりを愉しむ。ただこの結末はどうだろう。単なる好みの問題かしら、お芝居でみたら面白いのかしら。最近、☆のつけかたは、やや辛め。

世界を変えた10冊の本 池上彰 ☆☆☆

歴史・経済に疎い私も、少しは判った気になる。 波及力をもち、時代や思想に「大きな流れ」を生む本。その評価は、時々で変わるだけに、本のエピローグはよめない。大きな流れは得てして捉えがたく、無邪気・無意識のまま、私たちはすごす。おそろしいことだ…

続・建築について話してみよう 西沢立衛 ☆

「象の時間と蟻の時間」、ふと思い出すサーリネンのことば。時間のスケール感は、空間のそれよりも得がたい、出自と文化を負うものではないでしょうか。西沢さんの徒然なエッセイ、コルビジェやニーマイヤーに関する文など読み、建築にしろ文学にしろ、縮み…

額縁への視線 小笠原尚司 ☆

デュシャンを知った、高校時代でしょうか。なにかの拍子、絵画の額が気になって仕方なくなりました。ものごとにフレームを与えること、名前、つまり意味を与えること、無意識から意識へ。長いこと、ぼんやり考えてきました。この本は、ようやく、偶然見つけ…

窓をあけると 池部良 ☆

エッセイのつもりで読んだところ、実はさまざまなな人のショートストーリーでした。それもまた新鮮。1編、2000字程度。ちょっと江戸気質なおじいさんの、些細な失敗談・グチものが多く、私はそもそも読者層からはずれている? とはいえ家族ネタが書けるのは…

第18回 yoku aruku

書くより読め、それが鉄則。書くより歩け、それが信条。ですが、ここのところ、yoku kaku と化し、今回もシリーズものになりそうです。600字のスケール感を体得しようとしています。

ふなうた 三浦哲郎 ☆☆☆☆☆

(お断り)酔って書いています。ゆえに駄文ですが本音です。 今年さっそく、☆五つ。こんなに詩情ある作家が日本にいたとは、知りませんでした。時を経て滲み出るもの悲しさと、深まる優しさとが溶け合ってました。 ただ残念ながら、私にはまだ、「時間を経る…

ポトスライムの舟 津村記久子 ☆☆☆ 

登場人物と作者、読者(同年代の、働く女性。昔の小説では登場しえない女性ということだ。)の距離感が、べたりとせずに、さらりとしている。主人公の、自分自身に向ける視線すら、ときに第三者を観察するようだ。 「ポトスライム」にも、「十二月の窓辺」に…

直木賞・芥川賞の受賞作品が発表されました。どうも今回は、みな笑顔、というわけにはいきませんでした。受賞者、撰者、いろいろ思いや思惑はあるでしょうが、読者はただ、両者によい作品を残してほしいと願うばかりです。 ついでながら、私が指標とする賞は…

お早くご乗車ねがいます 阿川弘之 ☆☆☆

百ファンは作家にも一般読者にも多く、出会うたび親近感を覚えます。学生のときには退屈だった「阿房列車」も今では手放せない一冊ですが、「ご馳走帖」のほうが面白いと思っています。 本書の列車の旅は昭和30年代前半、私の両親の幼いころにあたります。…

ウェイティングリスト 1月

遊覧日記/日日雑記(武田百合子)・風に吹かれて(五木寛之)・ふなうた(三浦哲郎)・八月の光(フォークナー)・アルケミスト(パウロ・コエーリョ)手鎖心中/自家製文章読本(井上ひさし)・文章読本(谷崎潤一郎) いったい、いつ読めるのでしょう。うず…

ふふふ 井上ひさし ☆☆

突然ですが、ひとこと、 といった雰囲気に始まるテクスト。小気味よいユーモアと鋭さはさすがだが、政治ネタでは新鮮味が足りない。野球ネタも私には退屈。やはり、浅草フランス座などの芝居ネタ、作品づくりで蓄えた雑学ネタが、作者ならではで面白い。さら…

にぎやかな湾に背負われた船 小野正嗣 ☆☆

小説然とした作品。長閑な「浦」の過去ー大きな歴史と小さくとも濃い個々の時間ーが次第に暴かれ、「わたし」のいまへとつながる。現代の都会っ子には、不気味な後味が残るだろう。読み手が安易に同調できないところが、この小説を作品たらしめる。惜しむら…

族長の秋 G・マルケス ☆☆☆☆

2012年初の小説は、久々の南米文学。執筆に八年(1968-75年)をも費やたという大作である。同時期の「百年の孤独」(1967)よりテーマは明快だが、滔々と時の流れる「孤独」に比べ、内容・文体ともにがさがさとした感じを受けた。マルケス自身の生みの苦しみも含…

第12〜17回 yoku aruku

1週間ほどかけまして旅日誌をアップしました。韓国、ソウル・安東・釜山の年越しの旅です。2012年、今年も勇み足でyoku aruku、楽しんでまいります。

◆2011年冬 第2弾 展覧会(12月)

■モダン・アート、アメリカン 新国立美術館 2011.12.11.Sun 会期も大詰め。来館者の多さと10章からなる展覧会の構成にぎょっとするも、すんなり楽しめる。アメリカのイメージに符号したからかもしれない。宗教がかったりコンセプト過多だったりせず、とかく…

ことばの食卓 武田百合子 ☆☆☆☆

衒いのない正直な文章だ。連鎖する思い出も、些細な描写も、すんなり入ってくる。 子供の時分をかく武田百合子はこのとき、還暦を控えたころ。数々の想い出の中でも、「牛乳」「お弁当」が好きだ。予定調和的な懐かしさや共感を呼ぶ感傷ではなく、どこか子供…

対岸の彼女 角田光代 ☆

そうそう、と共感することは心地よく、なにより安全だ。それこそ女の子たちの会話の基本である。女子校12年間のあの異和感を思い出しながら読んだ。だが発展的であるにはちょっとした異物が必要だ。読書における、作家の世界観に対する不快感であったり、対…

沖縄学 仲村清司 ☆

悪趣味ではあるが、よその家の書棚を漁るのが好きである。書棚の主が、何を思ってその本を購入したかを想像するのだ。 本書は、佐藤愛子と曽野綾子を愛読する祖母がぺろっと読んだという、沖縄雑学書本。なんでも一泊二日(朝5時発、帰りは翌日夜11時)の…

ツチヤの口車 土屋賢二 ☆ 

帰省の度やることのない実家では、DVDをみるのもなんだか面倒で、本ばかりあさっている。説教くさい本が多いかと思えば、全く正反対に思えるエッセイがあるのが我が家らしい。一辺倒で露骨なユーモアは疲れる。

日本語教室 井上ひさし ☆☆☆

遺伝だと思う。わたしはことばの話が好きだ。音感の話に至り、中央と周縁の話になる。思い込んでいる世界地図とは異なる位相が見えるようだ。説教くさくない井上ひさしの語りもなかなかよい。 祖父は亡くなる前、病床で無意識のうちに漢詩を諳んじていたとい…