書棚探訪

ひとり日和 青山七恵 ☆☆☆

好感のもてる素直な小説。単純ではなくとらえやすくもない二十歳の主人公の視線に、思わず自分のそれを重ねてしまう。 それにしても本屋に平積みにされた文庫をみると、ほんと「ひとり」だらけの日本なんだな。私は、梶井が檸檬を置いた、あのころの本屋にい…

銀ヤンマ、匂いガラス 松山巌 毎日新聞社 ☆☆☆

昔懐かし、夏休みの気分になりました。記憶は脳裡だけではなく、五感のすべてに宿るもの。

ミャンマーの柳生一族 高野秀行 集英社文庫 ☆☆

2004年、ミャンマー。珍道中を通し、江戸の武家社会然とした当時の政権、社会が浮かび上がる。どこか書き切れていない感があり、とくに人物描写は厚みに欠くものの、相変わらずの高野節。

鉄の骨 池井戸潤 ☆☆☆☆

良質なエンターテイメント。加速するストーリー展開は心地よく、そこにさり気なく張られた伏線は実に上手い。 読み始め、小説のリアリティをついつい査定してしまったゼネコン勤めの私も、いつのまにかドラマにのめり込み、一気に読了。

アヘン王国潜入記 高野秀行 ☆☆☆☆☆

ビルマにあってビルマでないワ州。そこはアヘン生産の「黄金の三角地帯」。素朴な村人たちと自らケシ栽培に勤しみ、村の酒宴に、そして生や死に立ち会う。その筆者が町でもらしたのひとこと、「世界」はまだ存在していたんだな、というのが率直で印象に残る…

レキシントンの幽霊 村上春樹 ☆☆☆☆

なにもかも、脈略のなさそうなこと、それがなぜかぽつぽつとつながってくること。とてつもない悪意や孤独、ナンセンス、平常や諦め。村上春樹らしさが端的に感じられる良質な短編。

すき・やき 楊逸(ヤン・イー) ☆☆☆

うん、面白いです。主人公、かわいいです。歳とって冷め切った自分を思わずふりかえってしまうのでした。

ジャージの2人 長嶋有 ☆☆☆

うちの親子みたい。霧島に籠る、元カメラマンの父と、脱サラ気分?の娘(長男役)。昼からワインと暖炉の生活、変な虫はでませんが鹿がお花を食べちゃいます。はやく山にまた籠りたい!ちなみに、ジャージはきていません。小気味よくて面白かったです。

フリーダ・カーロ 引き裂かれた自画像 堀尾真紀子 ☆☆

フリーダ・カーロ。大学生の時、映画で知った。鑑賞者を不安にさせる、強烈な深淵。 わたしたちの詮索は、多分に強引で残酷だ。作家論を読み、あるいは裁判の報道などを聞く度、思う。物語のフレームに入れることで、他者を手中におさめようとする所有欲が見…

象と耳飾り 恩田陸 ☆☆☆

往復書簡、という作品名が目にに飛び込みました。続いて給水塔、曜変天目。私のために用意されたかのような言葉の並びで、本書を手にとりました。よい天気です。今から、野方給水塔にお散歩でもいこうかな。幽霊スポットの哲学堂もいいかもしれない。名前と…

気まずい二人 三谷幸喜 ☆☆☆

企画勝ちです、おもしろい。 間合い―きれいな和語ですが、うまくゆかないものですよね。たいがいは間抜けの間、に終わってしまう。 ラジオ深夜便を夜ごときいては、感心しています。

ポトスライムの舟 津村記久子 ☆☆☆ 

登場人物と作者、読者(同年代の、働く女性。昔の小説では登場しえない女性ということだ。)の距離感が、べたりとせずに、さらりとしている。主人公の、自分自身に向ける視線すら、ときに第三者を観察するようだ。 「ポトスライム」にも、「十二月の窓辺」に…

にぎやかな湾に背負われた船 小野正嗣 ☆☆

小説然とした作品。長閑な「浦」の過去ー大きな歴史と小さくとも濃い個々の時間ーが次第に暴かれ、「わたし」のいまへとつながる。現代の都会っ子には、不気味な後味が残るだろう。読み手が安易に同調できないところが、この小説を作品たらしめる。惜しむら…

対岸の彼女 角田光代 ☆

そうそう、と共感することは心地よく、なにより安全だ。それこそ女の子たちの会話の基本である。女子校12年間のあの異和感を思い出しながら読んだ。だが発展的であるにはちょっとした異物が必要だ。読書における、作家の世界観に対する不快感であったり、対…

沖縄学 仲村清司 ☆

悪趣味ではあるが、よその家の書棚を漁るのが好きである。書棚の主が、何を思ってその本を購入したかを想像するのだ。 本書は、佐藤愛子と曽野綾子を愛読する祖母がぺろっと読んだという、沖縄雑学書本。なんでも一泊二日(朝5時発、帰りは翌日夜11時)の…

ツチヤの口車 土屋賢二 ☆ 

帰省の度やることのない実家では、DVDをみるのもなんだか面倒で、本ばかりあさっている。説教くさい本が多いかと思えば、全く正反対に思えるエッセイがあるのが我が家らしい。一辺倒で露骨なユーモアは疲れる。

ワセダ三畳青春記 高野秀行 ☆☆

わが野方の女子アパートを思いました。よくあの模型だらけ、荒れ放題の部屋で生きながらえました。「彼女が自分の部屋に似合わない」の件にはぎくり。 先日素敵すぎる友人宅にお邪魔し、歳相応の人間らしい暮らしをすべきと改めて反省。

サクリファイス 近藤史恵 ☆☆

江古田のジャズバーのマスターに薦められた一冊。おもしろかった、素直に。勝負のかけひきとはちがい、少々小説も言葉も平坦ではありますが。

崩れ 幸田文 ☆☆☆

72歳の幸田文が全国各地の「崩れ」を自ら歩き、見て、書く。普通なら圧倒されて終わってしまいそうな光景だろうに、生きている自然の営みから、ひとの内奥にある「物の種」まで、どこまでも描写と語りが続く。「季節のかたみ」の印象が強かっただけに、新鮮…

そら頭はでかいです、… 川上未映子 ☆

ごめんなさい。この本、珍しく途中棄権しました。 日常の中に気づきをくれる寺田寅彦が好きです、 文句と食べることばかりの内田百輭が好きです、 女性だったらかっこよすぎるサガンが好きです。 エッセイ、お気に入りリストは簡単には増えないみたい。

人生がときめく片づけの魔法 近藤麻里恵 ☆

「触った瞬間に「ときめき」を感じるか」がものを捨てるか否かの基準だそうだ。片づけとは「モノを通して自分を対話する作業」ともいう。片づけに美学と哲学があるとは思いませんでした。 - いわゆる実用書の類、めったに手にしません。読んだとしてもyoku y…

14歳からの哲学 ☆☆☆ 池田晶子

考えるために、考える、ということを考える・・・ (何歳からでも遅くはない、何回よんでも無駄ではない だから本当は迂闊には感想はいえないのです) - ○個人的感想「君はいま中学生だ。」その一言に始まり、雑念だらけの今から少しだけ(といっても「我が…

猛スピードで母は ☆☆☆ 長嶋有

なにを考えているわけでもない登場人物たちに好感を持った。期待していなかっただけに、あっけなく読み終えた自分自身に驚く。自意識の塊が登場人物にないことが、抵抗を持たずに済んだ理由だろう。団地のハシゴを登って行ってしまう母、なんてなかなかいい…

日本辺境論 内田樹 ☆☆☆ ズルイ論、いや論ではない

丸山眞男のいうところの「きょろきょろ」している日本人。なにをやっても思っても、結局はこの「辺境論」に収斂してしまうのだから、なんだかズルイ。ただ、それでわたしたちの多くのことが説明されてしまうのだから致し方ない。 - 海外で活躍する友人が何人…

赤朽葉家の伝説 桜庭一樹 ☆☆

「マコンド」だ、「ウルスラ」だ、と興奮を交えながら読み進めた。 結局がっかりしたのですが。(まあ暇つぶし程度には面白いです。) - 地方の町、旧家の女三代記。伝説的な物語性と戦後の日本社会の動きとが(あまり乳化されることもなく)描かれている。露…

それからはスープのことばかり考えて暮らした 吉田篤弘 ☆☆

コンビニパンの包装をあける音、だいっきらいです。毎日、そんな味気ない音をたてて朝を迎えていませんか?現代人、サラリーマンのなれの果てです。(そういう私もバナナばかり食べているけれど、)本当は季節の彩とひとの手が入ったものを口にしたい。そこ…

しゃばけ 畠中恵 ☆☆

アニメだ。

ホテル・ニューハンプシャー J・アーヴィング ☆☆☆

1981年の作品。純然たるアメリカ小説。 ポストモダン版「大草原の小さな家」では、と思うのですがいかがでしょう。 - 小説にも流れる時代の空気は、私には実感が伴わない。だから単なる読み物として読む。アメリカ的というか、小学生のころのワイルダー「大…

ぼくのメジャースプーン 辻村深月 ☆☆☆

同じく読書倶楽部でロングヒット。 心に深く負った傷、そこから始まる様々な問いー心からの反省とは、あるいは復讐とは、本当の救いとは。逡巡の帰着点は自分自身への痛いほどの疑い。それらが正面から描かれている。 - 小説らしい小説を久々に読んだ。(こ…

ハーモニー 伊藤計劃 ☆☆☆

読書倶楽部にて大評判だった一冊。 世界観は比較的緻密だが単純、ゲーム的。今は懐かしいAKIRAや攻殻機動隊と大差ない。それでいて現実にひたひたと肌にへばりつくような気味悪さが残る。 作者は本作品執筆ののち、若くして病床生活を終えたという。たとえ続…