ホテル・ニューハンプシャー J・アーヴィング ☆☆☆

1981年の作品。純然たるアメリカ小説。
ポストモダン版「大草原の小さな家」では、と思うのですがいかがでしょう。

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小説にも流れる時代の空気は、私には実感が伴わない。だから単なる読み物として読む。アメリカ的というか、小学生のころのワイルダー大草原の小さな家」の感覚に近いものを覚える。

和製売れっ子作家の小説は、自意識過剰傾向あり。他者は「他者そのもの」としてではなく、「自己と別個のもの」としてのみ価値が与えられる。自分に関係する機能のみで足るために、「顔無し」の他者だっていっこうに構わないのだ。ところがこの小説のキャラクターたちは他者が他者では済まない。異様なほどにコイ。(語り手・ジョンを除いて。最後まで顔が見えてこないし、名前さえ記憶がおぼつかない)

「ソローは漂う」−だが個性的な人物、荒唐無稽な出来事も、ひとまずは生暖かなエンディングに行き着く。映画化されたらしいが、はたしてどんなだろう。上巻の前半ではなるほど映画向きだと思っていたが、読み進めるうちに疑わざるを得なかった。機会があれば鑑賞したい。コワイものみたさ。