女性

がんばりません 佐野洋子 ☆☆☆☆

ちょっと卑屈な自分を笑っちゃう、この小気味よさ! 「本好き女の離婚確率」なんてのもあるけれど、いまじゃあ「本好き女の孤独確実」なわけ。「ふとんを生涯の伴侶」にわたしも、ときどきわめいたって、まるまってたって、いいじゃない。

ひとり日和 青山七恵 ☆☆☆

好感のもてる素直な小説。単純ではなくとらえやすくもない二十歳の主人公の視線に、思わず自分のそれを重ねてしまう。 それにしても本屋に平積みにされた文庫をみると、ほんと「ひとり」だらけの日本なんだな。私は、梶井が檸檬を置いた、あのころの本屋にい…

アカシア・からたち・麦畑 佐野洋子 ☆☆☆☆

子供はけっして無邪気な天使ではない。小賢しさがまだないために、無垢の不気味さを抱えている。それをえがける大人は、鋭さと豪胆さを備えた女性たちだけだなあ。佐野洋子、武田百合子、そして誰だろう?

トスカーナの休日 フランシス・メイズ ☆☆

アメリカの大学で教職につき、詩人である主人公が一念発起、トスカーナに草臥れた家「ブラマソーレ」を買う。休みのたび、地元の職人とやりあいながら理想のわが家とし、庭にたわわになる果実で目と舌を楽しませる。と、小説だと思って読み進めましたが、実…

ヴェネツィアの宿 須賀敦子 ☆☆☆☆☆

大事に、大事にして読んだ。ために、予定より一週間ほど遅れる。彼女の意志の強さをかみしめ、記憶を自分のそれと重ねたどるように、あるいは底のしっかりした靴で石畳を歩くように、古本の粗く黄ばんだ紙を繰るように。語られる言葉と読む行為とが、ひとつ…

プーさんの鼻 俵万智 ☆☆☆☆

なにがかなしくて 短歌をよむのだろう なにかひびくから たまにはいいと思う ひとり夕飯たべるなさけなさ 少しごまかすことばの優しさ

かなえられない恋のために 山本文緒 ☆☆

小公女と少女たち きっと似ている。そんな予感がしたのは、幼いころ好きだった本が、バーネットの「小公女」だと彼女がいっていたからです。とかく悩みがちだった、かつての私と同じ選択。彼女の小説に興味はないけれど、以来、彼女の名を意識するようになり…

かーかん、はあい 子どもと本と私 俵万智 ☆☆☆☆

母になった俵万智、大人になって俵万智 自意識過剰!彼女の世界にふれたとき、そう反発したものです。私こそ、「山西記」にいたく共感するような、実に自意識過剰な中学生でした。元新聞記者に俵万智を薦められたのは半年前のこと。母になって感性がまた一皮…

海からの贈物 アン・モロウ・リンドバーグ 吉田健一(訳)☆☆☆☆

すべての女性たちへ この島には空間がある、時間がある―生真面目な良心は世界におしつぶされ、静かな心は日常に駆り立てられる。私たち女性はもう、枯れ果てるまで自らを与えてきてしまった。同時に、与える術を知らず、途方に暮れてもいる。コネチカットの…

白洲正子自伝  ☆☆☆

潔く、それでいて温かい。たしかにそれは薩摩隼人の血かもしれないし、これぞ白洲正子なのかもしれない。―私は幸福だった。というより、この雑木林の前に、明るく開けた野原が見えるが、そこへ行けば幸福が待ちうけているような感じがしたのである。―西国の…

すき・やき 楊逸(ヤン・イー) ☆☆☆

うん、面白いです。主人公、かわいいです。歳とって冷め切った自分を思わずふりかえってしまうのでした。

遠い朝の本たち 須賀敦子 ☆☆☆☆

コルシア書店の仲間たち 須賀敦子 ☆☆☆☆

哀しいだけが孤独ではないとしる温かさもつよさも、うちにあるそれは時間が醸成するものだから耐えるのみ、心裂かれる時もある

日日雑記 武田百合子 ☆☆☆☆

我があるようで さしてない 欲ぶかいようで さほどない 武田百合子、いいなあ 大岡昇平や飼猫への追悼、ぐっときた

フリーダ・カーロ 引き裂かれた自画像 堀尾真紀子 ☆☆

フリーダ・カーロ。大学生の時、映画で知った。鑑賞者を不安にさせる、強烈な深淵。 わたしたちの詮索は、多分に強引で残酷だ。作家論を読み、あるいは裁判の報道などを聞く度、思う。物語のフレームに入れることで、他者を手中におさめようとする所有欲が見…

象と耳飾り 恩田陸 ☆☆☆

往復書簡、という作品名が目にに飛び込みました。続いて給水塔、曜変天目。私のために用意されたかのような言葉の並びで、本書を手にとりました。よい天気です。今から、野方給水塔にお散歩でもいこうかな。幽霊スポットの哲学堂もいいかもしれない。名前と…

遊覧日記 武田百合子 ☆☆☆

Hは、母Nと小旅行をしながら読んでいます。母のエッセイに登場する様々な人物や自分。解剖されるような距離には、安っぽい感傷は微塵もなく、残酷で絶妙でもあります。 この上なく気まぐれで、その上精神的にマイッているHは、電車にのっても寝てばかり。…

遍路みち 津村節子 ☆☆☆☆

歳を重ねたひとのテクストには、含蓄や枯淡があり、ときに癖もある。プロの作品、素人の習作の別はない。読むたび、己の薄さに嫌気がして、何かを書ける気がしない。それなのに、いつのまにか再び、文字に埋もれて雑文を書いている。 またしても、歳に見合わ…

ポトスライムの舟 津村記久子 ☆☆☆ 

登場人物と作者、読者(同年代の、働く女性。昔の小説では登場しえない女性ということだ。)の距離感が、べたりとせずに、さらりとしている。主人公の、自分自身に向ける視線すら、ときに第三者を観察するようだ。 「ポトスライム」にも、「十二月の窓辺」に…

ことばの食卓 武田百合子 ☆☆☆☆

衒いのない正直な文章だ。連鎖する思い出も、些細な描写も、すんなり入ってくる。 子供の時分をかく武田百合子はこのとき、還暦を控えたころ。数々の想い出の中でも、「牛乳」「お弁当」が好きだ。予定調和的な懐かしさや共感を呼ぶ感傷ではなく、どこか子供…

対岸の彼女 角田光代 ☆

そうそう、と共感することは心地よく、なにより安全だ。それこそ女の子たちの会話の基本である。女子校12年間のあの異和感を思い出しながら読んだ。だが発展的であるにはちょっとした異物が必要だ。読書における、作家の世界観に対する不快感であったり、対…

なぜ子供のままの大人が増えたのか 曽野綾子 ☆☆

若い人たちと、若者に教育をほどこしてきた世代について。どれもひとまず正しい。与えられるばかりで与えようとしない若者はたしかに多い。だが与えられないことに焦り、思考・行動停止になる若者もそれ以上にいるのではないか。 私のまわりには最近、母親に…

小さな建築 富田玲子 ☆☆☆☆

うっとうし厚い灰色の雲。それを源から吹飛ばす爽やかな風と温かな陽ざしのよう。自分自身で雲を払拭できずに蹲ってしまうのは、「経験のなさ」を言い訳にしてしまう「勇気のなさ」ゆえか。清清しい自然体で、ときに泥に塗れて生活し、仕事ができたなら、ど…

怖い絵 中野京子 ☆☆☆

画家の個性やら芸術性はともかく、時代の感性があらわれてしまう、それが怖い。 今の日本の感性は、数十年後、どういわれてしまうのだろう?

心の青あざ サガン ☆☆☆

サガンの戯曲の主人公である兄妹の小説と、サガンの独白がたたみかけるテクスト。両面の距離感と表裏一体感が絶妙。 - フランス的な文学の嗜みも感性もないことは判っている。ブルジョワジーな奔放をまねたいと思うほど愚かでもない。それでも相も変わらずサ…

崩れ 幸田文 ☆☆☆

72歳の幸田文が全国各地の「崩れ」を自ら歩き、見て、書く。普通なら圧倒されて終わってしまいそうな光景だろうに、生きている自然の営みから、ひとの内奥にある「物の種」まで、どこまでも描写と語りが続く。「季節のかたみ」の印象が強かっただけに、新鮮…

人生がときめく片づけの魔法 近藤麻里恵 ☆

「触った瞬間に「ときめき」を感じるか」がものを捨てるか否かの基準だそうだ。片づけとは「モノを通して自分を対話する作業」ともいう。片づけに美学と哲学があるとは思いませんでした。 - いわゆる実用書の類、めったに手にしません。読んだとしてもyoku y…

愛という名の孤独 F・サガン ☆☆☆☆

「悲しみよこんにちは」でデビュー、18歳にしてフランス文壇の寵児となる。その自由な生き方から生涯取りざたされたらしい。 本書は壮年期を迎えた彼女へのインタビュー集。自由、孤独、愛−彼女の真っ正直な言葉に、女性読者ならばとくに共感するのではなか…

ハバナ奇譚 Daina Chaviano ☆☆☆☆

ハバナへの複雑な思いこそ引力。遠い地の果てから、遠い過去から物語が引き寄せられ、縒りあわされて彼女のいま・ここ、マイアミへと至る。 女性にしかもちえない眼差しと感覚でもって描かれた一冊。(妙な表現だけれども)カクテルにたとえるなら、熱風すら…