文化

生きるための建築展 @東京都美術館

◆二週連続の上野 先週はマグロ丼、今週は伊勢ろくの親子丼。武田百合子のエッセイをおもいながら秋の上野を歩く。独特の雰囲気がたまらない。◆生きるための建築展 ドイツからの友人、アーキテクトと鑑賞。彼女は昨日「塔の家」を訪れたという。今も昔も本質…

ベルリン国立美術館展 @国立西洋美術館

エクリュの体温、ライムストーンのいだく時間―私の出会ったフェルメール『真珠の首飾りの少女』。私はその、穏やかに自身として在る壁を、ただ見つめるのみでした。心優しき部屋の主に挨拶をすることすらせずに。 ◆ベルリン国立美術館展 会期終了間際の日曜…

日本語と日本人 司馬遼太郎(対談集) ☆☆☆

赤尾兜子との対談。和語のしなやかな表現で、リアリズムに徹した正岡子規について。日本文学における彼の特異性をしる。のみならず、厚みがあり、やや屈折する人間性に惹かれた。これは子規をあらためて読まねば、と思う。 家賃と同じくらい、日々の刺身に金…

日本人と日本文化 司馬遼太郎+D・キーン ☆☆☆☆

対談から40年。今読んでも、日本という国は相も変わらず、哀しいくらい、面白い。内容は目新しくも過激でもないが、身体の一部と化した最良の知識人の造詣に、じんわり感銘を受ける。なにしろ巻末の関連略年表は、西暦600年から日韓併合にまで及ぶ。思わず…

カルロス四世の家族 小説家の美術ノート 井上靖 ☆☆☆☆

久々の井上靖。やはり、スゴイ。大作家にふさわしく、彼は眼前の名作から、作者の姿を透かし見る。たとえば桂離宮のくだり。「しかし、樹木も敷石も何もあわてて決める必要はない」作者のなにげない機微を説得力のある文にする、観察眼。知ることは、不自由…

ミシュラン三つ星と世界戦略 国末憲人 ☆☆

ここに、3つの職。あなたはどれを選びますか?サービス時間、料金、主な商売道具、そしてお客様との関係は次の通り。A 15分〜1時間半/2000円〜15000円/鋏/鏡の中にお客様の表情の変化を見ながら。 B 数時間〜1日(仕込を含む)/ほぼ上限なし/包丁/…

芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったのか 擬態するニッポンの小説 市川真人 ☆☆☆

村上春樹はダシといってもよく、本書は日本の近現代小説における、近代化・アメリカ(「父性」)へのコンプレックスを解いています。既視感のある展開ですが、わかりやすい読み物でした。ただ村上春樹以降の小説家たちについてはどうでしょう。結びに触れら…

ザルツブルク 祝祭都市の光と影 池内紀 ☆☆☆☆

小さく地味だが誇り高い街、あるいは異形の街。「特ニ記スベキ何事モナシ」、と、『ザルツブルク幻視行』は始まる。歴史であり、エッセイ、小説でもある。こういうものを、描きたい。こういう体感のために、きっとだれもが旅をする。 何事もない一日がやがて…

ふしぎなキリスト教 ☆☆☆☆

神様の生態学である。わたしたちは「近代」が、その澄まし顔をめりめりと剥がされていく様を、目の当たりにしている。EU破綻状態のいま、読みたい一冊だ。整理しきれない性質を多く孕んだキリスト教。それゆえ生まれた、事由の追及、異端が吐き出される機…

道具考 榮久庵憲司 ☆☆

断念。でも会得には程遠くとも、エクアンさんの考えのあらましはわかったつもり。ありがたい言葉をありがたく受け取る余裕が今、ないのかもしれない。

思考の整理学 外山滋比古 ☆☆☆

行きつけのバーで本を読み、手帳に言葉を書き写していた。すると、「君、メモ魔だねえ」。声をかけてきたのは初老の男。悪名高い有名ゴシップ誌の編集長だったという。「ほう、建築やってるの、わりに字が汚いじゃない」。メモ魔諸君、読書家諸君には物足り…

文明の生態史観 梅棹忠夫 ☆☆☆

1960年前後にかかれた「文明の生態史観」他。東洋・西洋の構図ではなく、その間に「中洋」をとらえることで、旧大陸の東西の端に位置する「第一地域」、古代文明の地である中洋と周辺の「第二地域」のモデル化を行う。なるほど、欧米アカデミズムのつくった…

フラメンコ・フラメンコ @ル・シネマ ☆☆☆☆

鮮烈。緊張と揺らぎ、張りつめた筋肉や弦から解放されるエネルギー、皺ひとつにこめられる時間、個と集い。生から死、ふたたび生。映画の構成はきちんとループをなす。最後にそれをふっと開いてみせ、観衆が劇場から街へと還ってゆける仕掛け。奏でる、書く…

悠久の光彩 東洋陶磁の美 @サントリー美術館 ☆☆☆☆

三彩貼花宝相華文壺 7-8C 美しい、とはしらなかった 青磁管耳壺 13C たぶんこれが一番私の部屋に似合うかな 月日釉碗 11-12C 音叉の響き 木葉天目茶碗 12C 前田家旧蔵だったか、納得 油滴天目茶碗 12-13C 放ちつつ吸いこむ宇宙 五彩牡丹文盤 16C シャガール…

フリーダ・カーロ 引き裂かれた自画像 堀尾真紀子 ☆☆

フリーダ・カーロ。大学生の時、映画で知った。鑑賞者を不安にさせる、強烈な深淵。 わたしたちの詮索は、多分に強引で残酷だ。作家論を読み、あるいは裁判の報道などを聞く度、思う。物語のフレームに入れることで、他者を手中におさめようとする所有欲が見…

別冊太陽 南方熊楠 ☆☆☆

つくづく、ミーハーな読者向けの雑誌である。 土門拳、内田百輭、いままで何冊かっただろう。 いろいろな人がいる(いた)、日本も捨てたもんではない。

文章読本 谷崎潤一郎 ☆☆

言葉は進化し、退化します。昭和九年に書かれた「文章読本」にはミイラ化した指摘も見られます。国語=日本を考える際、日本と西欧、和文と漢文の対置は、明解ですが、ややうっとうしい。とはいえ、反省しました。正確に表現しようとするあまり、饒舌になる…

世界を変えた10冊の本 池上彰 ☆☆☆

歴史・経済に疎い私も、少しは判った気になる。 波及力をもち、時代や思想に「大きな流れ」を生む本。その評価は、時々で変わるだけに、本のエピローグはよめない。大きな流れは得てして捉えがたく、無邪気・無意識のまま、私たちはすごす。おそろしいことだ…

額縁への視線 小笠原尚司 ☆

デュシャンを知った、高校時代でしょうか。なにかの拍子、絵画の額が気になって仕方なくなりました。ものごとにフレームを与えること、名前、つまり意味を与えること、無意識から意識へ。長いこと、ぼんやり考えてきました。この本は、ようやく、偶然見つけ…

沖縄学 仲村清司 ☆

悪趣味ではあるが、よその家の書棚を漁るのが好きである。書棚の主が、何を思ってその本を購入したかを想像するのだ。 本書は、佐藤愛子と曽野綾子を愛読する祖母がぺろっと読んだという、沖縄雑学書本。なんでも一泊二日(朝5時発、帰りは翌日夜11時)の…

日本語教室 井上ひさし ☆☆☆

遺伝だと思う。わたしはことばの話が好きだ。音感の話に至り、中央と周縁の話になる。思い込んでいる世界地図とは異なる位相が見えるようだ。説教くさくない井上ひさしの語りもなかなかよい。 祖父は亡くなる前、病床で無意識のうちに漢詩を諳んじていたとい…

怖い絵 中野京子 ☆☆☆

画家の個性やら芸術性はともかく、時代の感性があらわれてしまう、それが怖い。 今の日本の感性は、数十年後、どういわれてしまうのだろう?

倫敦塔 夏目漱石 ☆☆☆☆☆

この一年読みためてきた本たちの存在を一気に覆し、来年一年すらも左右しかねない作品。改めて別の場でとりあげるべく、短文を書いているところです。

◆2011年冬 第1弾 展覧会(11月)

■愉快な家 —西村伊作の建築— @INAX/11.19.Sat アメリカのバンガローを取り入れ、家族本位の住まいを提唱・実践した文化人・西村伊作。文化学院の創設者として知られ、彼の広範な興味は住宅・家具から陶芸、服飾、絵画にまで及ぶ。藤森照信が「アメリカよりも…

春宵十話(ほか) 岡潔 ☆☆☆☆

およそふた種類の人間がいるらしい。教育者と実業家。ともに確かな眼と判断力をもつ。違いはその先、ただ一点だ。だがその一点が実に正反対なのである。 ひとをつくるひとのいうことには「真我になってこそ、人々は心が一つに溶け合うことが可能なのです」、…

◆2011年秋 第5弾 行き着くところは結局、食欲の秋

■長月の会 夏の暑さが残る9月には元気のでるコリアンアレンジ。 ・青菜のチャプチェ ☆☆☆☆ ごはんがススム! ・野菜とえびの松の実あえ ☆☆☆☆ 松の実最高。材料色々で丁寧な生活感が嬉しい。 ・キムチの土鍋ごはん ☆☆☆ 石焼ビビンバ、実家でよく食べるので物…

◆2011年秋 第4弾 王道、芸術の秋

■礒江毅=グスタボ・礒江展「真実の写実絵画」 2011年9月11日(日)@練馬区立美術館 愛情ではないのです。冷徹なまでの時間の凍りつけ、解剖の眼差し。観る者にもその過程を強要する凄みがありました。写実絵画といえば、ホキ美術館で得た一種のアレルギー…

人間の建設 小林秀雄・岡潔 ☆☆☆☆

おもしろい絵ほどくたびれるという傾向がある。 物というものは、人をくたびれさせるはずがない。 物と絵かきは、ある敵対状態にあるのだな。(小林) 物を生かすということを忘れて、 自分がつくり出そうというほうだけをやりだしたのですね。(岡) 矛盾が…

「おじさん」的思考 内田樹 ☆☆☆

本と本とがつながる。読み手=わたしのせいだろう、けれども、誰もが行きつく根深い日本の構造が厳然として在るためであろうと考える。「日本辺境論」では「それをいってはお終い」というごもっとも感が強かったが、本書はやや異なる印象。(関連書籍)「教…

教育とは何か 大田堯 ☆☆☆

大田先生は人間を「分別」する存在だと位置づける。生涯にわたって選択をし続けるがゆえに、可能性は無限であり、同時に孤独へのベクトルを持っている。そのような「個」を超えた「種」の観点から教育が真正面から語られた一冊。 - どういうわけか人生論だと…