カルロス四世の家族 小説家の美術ノート 井上靖 ☆☆☆☆

久々の井上靖。やはり、スゴイ。大作家にふさわしく、彼は眼前の名作から、作者の姿を透かし見る。たとえば桂離宮のくだり。「しかし、樹木も敷石も何もあわてて決める必要はない」作者のなにげない機微を説得力のある文にする、観察眼。

知ることは、不自由になることであってはならない。ひと月前、石元泰博桂離宮展にでかけたときのこと。私は言説にまみれたテーマに臆してしまった。だが井上靖は、知ろうとすることで自由になる。素直な感性と想像力を働かせ、思考し言葉にあらわす。それは遠い過去の作家の挑戦を受けて立つ、れっきとした勝負である。