族長の秋 G・マルケス ☆☆☆☆

2012年初の小説は、久々の南米文学。執筆に八年(1968-75年)をも費やたという大作である。同時期の「百年の孤独」(1967)よりテーマは明快だが、滔々と時の流れる「孤独」に比べ、内容・文体ともにがさがさとした感じを受けた。マルケス自身の生みの苦しみも含まれているのかもしれない。とくに話者の展開が嵐のように移り変わる文体は、慣れるまでに相当のエネルギーを要す。リョサ「緑の家」(1966)の体感に近かった。言葉と表現の豊潤さも凄まじい。(いつものごとく、鼓氏は一体どう訳したものかと素朴に思う。)その中、存在のぶれない軸として、「大統領」の母ベンディシオン・アルバラドと彼女の愛が印象深かった。
マルケスの長編にはとかく時間と精神力を要するため、短編を薦めている。「青い犬の目」「エレンディラ」に収められた短編には、長編とはまた異なる、深海のような魔術が秘められており美しい。「中南米のおっさん」といった風貌には一見釣り合わない、彼の想像力(祖母からも受け継いだものであるとよくいわれる)、そして文豪としての腕。その深い巣窟で、今また、いかほどの世界が成長しているのであろう。