ラテンアメリカ五人集 (集英社文庫)

砂漠の戦い/ホセ・エミリオ・パチェーコ/メキシコ□140424
小犬たち/マリオ・バルガス=リョサ/ペルー□140425

<少年時代> 少年期から青年期をたどる短篇2作。メキシコの少年は友人の美しい母親に心を奪われ、ペルーの少年は性器を失くす。喪失はそれそのものでは済まない。残忍な時間が青年の内奥を侵食する。/ 私は少年時代を知らないが、少女時代はシロツメクサのごとく純であった。少なくともかつて読んだ本においては。秘密の花園、少公女、赤毛のアン…疑いを持つこともなく、ともに苦境に立ち向かい、境遇をこえて心を通わせた。/ ひとつの物語として少女時代は完結し、漫画の描くすらりとした女性になるはずだった。その先など想像もつかない私に、シロツメクサがイバラになるとはどうして知りえただろう。漫然と大人になった私もきっと、無数の傷を内部に負っている。

リョサの語り> 「緑の家」の鮮烈さは忘れられない。竜巻のように渦巻き、絡みあい、読み手を乱暴なくらいに巻き込む。比較的読みやすい本作品は、「緑の家」を五つくらいの撚り糸にほぐした感。「密林森の語り部」にも顕著な、ペルーの土に還ろうとする意志も薄く、リョサの語りを冷静に楽しんだ。

<メキシコ> 強烈なコエタサルを読んだ直後であったため「砂漠の戦い」読みやすかったが、印象には残らず。やや説明的に思えるほどの社会背景の描写は興味深い。