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庭。それに喚起される言葉は広い。
建築。その箱につい自らを閉じ込めがちなわたしたちを、すっと解き放つ一冊。
境界、時間、都市の余白、かたちのないもの、デザインしきれない部分、人々を引き寄せるなにか。そして束の間の純粋な気持ち。

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久々の前向きになれることばだ。書きたいという素直な欲求が、自然と引き出される。
外へと攻撃的な思考をもたらす批評とは真逆、内へと引力をもつ小説でもない。ではエッセイか?優れた随筆を読むと私は、肌の感覚、つまり内と外のふれあいに敏感になる。近しい体感はあった。うつくしく、しかも適確な言葉遣いは幸田文「季節のかたみ」を彷彿とさせる。だがもちろんエッセイでもない。個人的な眼差しを超えて、一般性という骨のある文章なのだ。
書くことはむつかしい。自分の視点の稚拙さを思い知る。書くことは危険だ。言葉で他人を不快にすることは実にたやすい。そんな悩みは可愛らしいな、と自分で思う。すっと軽やかな筆致、しかも切れ味のある身のこなし、あるいはいいものを、いいところをみいだす眼。真似はできない。けれど学びたい。