【建築探訪】A書庫

都内某所、個人宅。といっても住まうのは、1万冊におよぶ書籍、そして時間と場所を遡る施主の記憶です。量塊にうがたれたこの空間は、施主と建築家との4作品目の協働にして、はじめての新築。トークセッションに参加しました。

□ヒューマンスケール
重量感ある塊にうがたれた真円の空間。真上には食い込むように小さく開口があき、そこをめがけて本が空間を埋め尽くす。音と光を遮断され、施主の脳内をめぐるのは、実にぞくぞくする体感です。けれどもここでは、心地よさと不気味さの境界が、健全に保たれていました。
キースラーのエンドレスハウス、村上春樹の(どの小説だったでしょう?)井戸から見上げる月、ボルヘスの迷宮。理解を超える力は影もみせない、ほどほどのヒューマンスケールです。

□作家性の所在
よく言えば健全、悪く言えば凡庸たるヒューマンスケールは、施主(奥様)がいうところの「作家性を消す」態度に通じるものかもしれません。
おりしも、吉本隆明大西巨人の対談、資本主義と作家のタレント性について読んでおり、建築家と施主の関係、作家性の在り方(水商売?)に聞き入りました。その文脈で、奥様の口から何度も白井晟一の名が出たのは意外でした。
建築の視点からではなく、奥様のようなキュレーション感覚で建築を捉え直してみたいと思います。

□DATA
設計:堀部安嗣
東京都/個人宅/2013年竣工/4月7日見学