小さい伝記 植田正治 ☆☆☆

「この人は本当に写真が好きなんだな」「やさしい人なんだな」。写真をぱらぱらと繰って父が言った。ポートレートを中心に相当数の作品が収録され、植田正治の飾りのない言葉がつづられた作品集である。作品として、写真の構図や人物の表情(笑顔、はにかみ、無表情…)をみるだけはでなく、子供たちの服装(カープのキャップ、手作りのサンドレス…)、看板などを通じ、時代をうかがい知るのも面白い。
エッセイでは、頻繁に大雪に見舞われている様子が印象的だった。白と黒だけが空と地をつくる、山陰の冬。想像が及ばぬほど、抜けるような青空である。太平洋側の年の瀬を、のんきに実家ですごしている。