雪男は向こうからやってきた 角幡唯介 ☆☆☆☆

新年初の一冊がまさか「雪男」とは自分自身おどろいている。ただ、キワモノのバラエティ番組(年末年始に多い)とは全くちがう。角幡さんらしい、客観的で少し理屈ぽい視点が余すところなく発揮されたドキュメンタリーである。雪男伝説は、現代の高度なメディアとローカルな伝聞のハイブリットといえ、古代の伝承の仕組みをもなぞれそうで興味深い。(文化人類学、という領域か?)
作中で強く記述されるのは、作者の雪男との距離感の変化である。その点、代表作「空白の五マイル」(作者自身がとりつかれたチベット奥地の探索記)よりもドラマ性には欠けるが、ドキュメンタリーとしてより優れている。「業」に対し、かきみだされる思いを抱くことなく、冷静に読み進めることができた。
何かにとりつかれた人をうらやむ気持ちは今もある。けれども、とりつかれた様を演じようという若さはすでにない。日々を淡々と丁寧に重ねることもまた、平凡だがかけがいのないことだ。