石水館

どんよりとした空はついに雨空となりました。登呂公園の南端、住宅地と隣接した角地に、石水館はあります。垂れ込める雲よりもさらに身を沈め、とらえどころのない姿。すこし驚いて入口へと向かいました。
・アプローチをくぐると、陰鬱に聞こえたはずの雨音が木の葉に踊り、その先の噴水はメゾソプラノで歌っています。異世界です。噴水はその臍ともいうべき象徴でしょうか。触れられないそれを目と耳に認めてから、扉の先、胎内あるいは白井晟一の脳内に至ります。独特の金属のにおいを射す銅の開口。黒く磨かれて水盤となった床。木天井の向こうから妖艶な光を放つオニキス。
・白井建築には、他者をのみこむ内奥と重く堆積した時間があり、芹沢作品には手元に感じられる親しみがあります。このふたつの世界の調和はむつかしい。ただ最終展示室に至り、古今東西から集めた芹沢コレクションを目にしたとき、ふたつの世界が交差する瞬間を感じました。
水の音に助けられ、石に囲い込まれた異世界から放たれえたものの、重さは依然、肌に貼りついています。不格好な鳥が、しきりに雨上がりの地面をつついていました。