犬の婿入り 多和田葉子 ☆☆☆

ペルソナ ☆☆☆☆
自分の過去と重なるところが多すぎたとはいえ、軸のある良質な小品であることには間違いない。
子供たちから向けられた悪意の眼差し、残忍さを湛えた薄い唇から発せられる慇懃な言葉。不気味な部位がキメラとなり、虚ろな時間の奥に潜む。70年前、東西分裂時、今に至っても。電飾されたベルリン中央駅の前で今も密度を喰らい続ける。ドイツ人たちには見えない怪物が、わたしにはみえた。ガイジンだから、アジア人だから。
川と空が透過して、天と地がわからなくなるほどの冬の夜。空気も土も、肌も、同じカーキ色に染まる秋の薄曇り。ドイツはわたしの奥底に巣食ってしまった。表層でふわふわとすごす今、そしてこれからが、あの奥底にまで根を張ることはないだろう。□140404読了