誘拐の知らせ ガルシア・マルケス ☆☆☆☆

コロンビアでのジャーナリスト連続誘拐事件を描いた力作。地球の反対側、剣呑な国にあって現実味は感じられないものの、緊迫感にはのみこまれる。
出自であるジャーナリストとしての腕とノベリストとしての言葉の効果は絶妙。幾分の二重性も感じさせない。「予告された殺人の記録」が近未来系から現在・近過去へのベクトルで貫かれ、あるいは「百年の孤独」も物語の果てを終始匂わせるのに対し、「誘拐」はあくまで本流のジャーナリズムとして今に視点がある。ジャーナリズムという観点から強いて比較するなら「幸福な無名時代」だろうか。数行で済まされそうな事件のひとつひとつに小説的機微と機転を描いている点で「無名時代」のほうが、手腕が力みなく発揮されている。

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事件の解説と物語の発見、ジャーナリズムとノベル、ノンフィクションとフィクション
その境界とは?「消費」の機構においては同じもの?

T氏は断食・断酒ならぬノベルの「断読」を一年間強行したらしい。小説を読むことに消費行為以上の価値を見出せないと疑ったのだという。その姿勢、理解はできるが、真似はとてもできそうもない。