狼たちの月 フリオ・リャマサーレス ☆☆☆☆

闇と光の相克が、風の叫びと銃声が人物を語り、
男の眼は時間を悲しみと怒りで染める。
「黄色い雨」での言葉の衝撃が、より激しく蘇る。

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リャマサーレスの言葉ほど、身体や時間をつなぎとめるものはないのではないか。歴史そのものでも、架空だけでもなく、見事に昇華された物語。ぐいぐいと能動的に進み、読者を漂わせはしない。なんという力強さだろう。意思が漲っているのだ。
スペイン内乱と事情は異なれど、私の暮らす日本にもかつて、怒りと悲しみに震えるたくさんの眼があった。すべての、ひとつひとつの物語は、ヤスリがかけられ滑らかな歴史になり、私の前に用意されている。それはやむを得ない。だが、細かに散ったオガ屑を、時折舞い上がらせたいと思うのだ。平準化された歴史の上を滑らないこと。足を踏み鳴らすこと。そうして想像でもいいから、想起すること。
力強い「狼たちの月」の読後感を、感傷的で抽象的に終わらせるのは本意ではない。けれども、かけめぐる衝撃が、私を思考停止状態に至らしめている。そうしている間にも、いったいいくつの眼が燃えていることだろう。それらは必ずしも戦争に向けられているとは限らない。今ここなりの、怒りと悲しみがあると思うのだ。