ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦 ☆☆

「泣くな、少年」
郊外の新興住宅地に突如あらわれたペンギンたち。単なる珍風景ではすまなかった!つぎつぎにつながるたくさんのエレメント。それはちょうどワームホールのように。個性的で、でも「たいへん」親近感のわくキャラクターが織りなす一夏のファンタジー。(読書倶楽部・クリスマスプレゼント交換図書)


8年前になるだろうか。売れ残りのモミが横たわる、厳冬のベルリン―まだ工事中の中央駅前に、無数の孔が底なしの口をあけている。首都に似つかわしくない空地が、暗闇を湛えるのだ。歴史と資本の歪み、目論み。あらゆるモンスターが巣食う闇である。
孔から逃れ、ひたすら南下した先は南チロル。空が破れたかと思えるほどの、無数の星に眩暈。そこへ至らんとして、山頂の村を目指した。あけて朝、時をかみしめるような光が、家々を、牧草地を、すみずみまで照らす。そこに、あの孔が忍び寄る隙はすこしもなかった。