よみがえれ!夢の国アイスランドA・S. マグナソン ☆☆

「よみがえれ!夢の国アイスランド」と私の旅のはじまり2
本書の刊行から間もない2008年、アイスランドの経済が破綻し、2010年には火山の大爆発で空の交通網が大混乱した。それまでこの国を認識していなかった日本人は私だけではないだろう。その後の数年間、このいささかお騒がせな小国は、環境立国・観光立国として知名度を上げている。(その点、ヒマラヤの小国ブータンに似ている。これについては別のところでぜひ書きたい。)
アイスランドを環境立国として成り立たせるものが豊富な水と地熱だ。国営電力会社は、豊富な資源により安価なエネルギーをつくり、アメリカのアルミ工業へと供給している。いい方を変えれば、国の身売り。非常にショッキングな一面を本書で知った。
ケフラヴィークを早々に立ち、島の南海岸を目指す。一週間で島を一周する強硬スケジュールだ。まどろんた雲空のもと、延々とつづく、荒涼とした地。すこし白みがかった苔の緑は、時間までも溶かしてしまう。白い熱煙がたちのぼるのは、そんな写真映えのしない風景の真っ只中であった。期せずしてあらわれた、バブリーな構えの地熱発電所、兼、教育施設。発電と給湯システムの解説をきき、プラントの機会を間近に見る。(ただの無愛想な箱とポンプなのだが。)
ふと、レクチャールームの片隅に派手な装飾品がみえた。なんと端午の節句の兜である。実は施設の右手、発電施設は三菱電機製、左手の給湯施設は東芝製(日立だったか?)。豪華な贈答品にも合点がいく。そして、原発推進国だった日本が、地熱利用の技術提供をしているという皮肉。余談になるが、アイスランドがワーキングホリデーの協定国であることをご存じだろうか。独・仏・英といった大国、韓国などの近隣国、そこにアイスランドが混じっていることが長年の疑問だったが、ようやく諒解した。
さて一通りの見学ののち、施設のおじさんに、つい二週間ほど前にも福島から視察団が訪問したと教えられる。旅が始まったばかりの私たちに「アイスランドではね、小さい町でも必ずあるものがある。教会と温泉だよ。小さな町の温泉がおすすめだ。日本も温泉があるね。原発をやめて地熱をする、それが道ではないだろうか。」
アイスランドは小さな国だ。島の大きさは北海道と四国をあわせた程度で、人口30万といえば、日本の中核市にあたる。(政令指定都市は50万人)。人口密度は輪をかけて低い。ゆえにハード・ソフト両面のインフラの舵取りにおいて、国の役割は決定的だ。
日本の内情はこの小国よりずっと複雑だ。からみあう利権、身動きがとれない現実。発電所のおじさんの発言はあまりに無邪気だ。たしかに、アイスランドのような特区をつくることができたならよいのかもしれないが。極東の一国の課題にあたるとき、極北の小国はどこまで参考になるのだろうか。