日本語を書く作法・読む作法 阿刀田高 ☆☆☆

母語のこと
◇英語を母語とする人口は多くはないはずだ。アジアでは日本語、フランスやイタリアの山奥ではドイツ語が案外役立つ。言葉の地図を彩る筆は、統治の禍根だ。
◇観光国アイスランドでは、警備員や主婦まで、誰しも英語が堪能だ。現地語を聞く機会といえば、飛行機のアナウンスくらいだ。音はふわふわとしてとらえどころがないが、気骨を感じる。古ノルド語を記憶し、サガやエッダを生んだ言語である。
◇20世紀半ばまでデンマークの統治下におかれながらも、生き延びた小さな島国。勝因はその誉れ高い言語にある。土地が貧しく奪取に値しなかった。それだけではあるまい。
◇色とりどりに、言葉の地図を描いてみたい。色鉛筆ではとても足りない。絵具とたくさんの筆が必要だろう。