ESSAY

世界の美しさをひとつでも多く見つけたい 石井光太 ☆☆

教科書のような一面的な擁護や非難はたやすい。一行から削ぎ落とされる多面的な現実には、計り知れない物語の連鎖がある。現実のままを伝えんとする著者の姿勢がストレートにわかる一冊。「現場を背負う責任」のひとことに集約される覚悟が凄まじい。「物乞…

弱さの思想〜たそがれを抱きしめる(辻信一+高橋源一郎、大月書店)

「女性と建築」をテーマに、大学で表現におけるマイノリティの研究にとりくんだ。成人白人男性か否か、欧米/日本、作家/職人という二極に図式化するのは容易だが、修士論文では、大正時代の女性と建築の数奇な結節点を描いた。(主婦という新階層、カリスマ…

わたしはマララ マララ・ユスフザイ ☆☆☆☆☆

故郷の山、客人が溢れる家の風景、人々に這いいる脅威と恐怖、無力と矛盾の国がある。弟や親友と喧嘩をし、背が伸びてもっといいスピーチがしたいと願う。ひとりの少女の眼をかり、自らの心でみる。宗教や国のいかんを問わず全ての隣人へ深い感謝を持てます…

にょっ記 穂村弘 ☆☆☆ 

俗すぎて笑いがとまらない。たいのおかしら(さくらももこ)以来かな。鎌倉から新橋までの50分、諦めていつも通り寝よう。笑うアホづら、眠りほうけるマヌケづら。衆目にさらすみっともなさは大差ない。(文春文庫/140802読了/読書倶楽部)

アンネ・フランクの記憶 小川洋子 ☆☆☆

1995年、アンネの足跡と友人たちをたずね、小川洋子はオランダ、ドイツ、そしてポーランドへ発つ。「古い友人」のようだというアンネと彼女とは、書くことへの思いで結ばれている。ひとの身体、時間、想いは、無残に解体され、無機的なパーツとして集積され…

じつは、わたくしこういうものです クラフト・エヴィング商会(吉田浩美+吉田篤弘)☆☆☆

月光密売人、警鐘人…集って茶会でもしてみたいものですね。あ、でもみなさん、ほうぼう、おいそがしそうで。え、わたくし?えぇ、光蒐集士というもの、えぇ、修行中の身ですけれど。 (読書倶楽部/140529読了)

貧困の光景 曽野綾子 ☆☆☆

本当の貧しさをわたしたちは知らない。清貧とは違う、根本的な腐敗。(2007/新潮社,140523読了)曽野綾子講演会 【想起、理想】その晩本書を貪ったのは講演会に感化されたからだった。テーマは「世界の中の日本」。ミッションスクール時代に戻った感覚で、忘…

14/04/02 静岡美術館めぐり 

・天竜浜名湖鉄道 ・秋野不矩美術館 藤森照信 ・芹沢介美術館(石水館)白井晟一 ・登呂公園・駿府公園ぽっかりあいた平日の一日、急遽ふだん通り過ぎてしまう静岡へ。ふたつの美術館を訪れました。鑑賞者や素材へのアプローチが対照的な作品。丘の淵にたつ…

パンツの面目 ふんどしの沽券 米原万理 ☆☆

傘をさす雨ふりの朝、月に一度のものがくる朝、寒くて着ぶくれをする朝。技術が発達しても日常生活は案外、原始的なままだと感じることがあります。 何の疑いもなく身に着けるパンツ、ふんどしは、まさに原始的で永遠の関心事。体に一番距離の近いものである…

空白の5マイル 角幡唯介 ☆☆☆☆

チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑むバネのある力強い瞬間、共鳴し増幅する男たちの物語。ツアンポーとその流域「空白の5マイル」に文字通りのみこまれるようにして読んだ。植村直己にあこがれた幼いころとはちがう。私は、井上靖「天平の甍」の業行…

ひとり暮らし 谷川俊太郎 ☆☆ 13/10/27

ふたり暮らしをはじめた同期が残していった一冊。 「葬式には未来というものがないから何も心配する必要がない」と谷川俊太郎はいう。葬式をあまり知らないが、私も結婚式は苦手だ。演出が欺瞞と商売っ気に満ちている。 物語には救いを、人生には幸せをと、…

きょうも、いいネコに出会えた 岩合光昭 ☆☆ 13/10/30

いきつけのランチレストランで手に取った一冊。1枚写真を繰るごと、感覚のあたらしさを感じた。 視点を低く、焦点をきゅっと絞る。ネコの眼でこんなにもかわる、時間のはやさ、光のタッチ、ネコとひとの表情。

死に急ぐ鯨たち/方舟さくら丸 安部公房 ☆☆☆

見えない毒に侵されながら「おもてなし」をする国。この異様な終末を正鵠に射ていた。今、ぜひ読みたい安部公房の小説、評論。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・明日は今日のようにやってくる。逃れられない危機の存在を知っていても、…

焼きそばうえだ さくらももこ ☆☆☆

人前で読めない作家ナンバーワン、さくらももこ。今日、早朝の大江戸線でにやけていたお姉さんは私です。 正直すぎて本気すぎて面白い、くだらないのがわかっていてもくだらない。バリに焼きそば屋つくってしまうなんて。それも、ただの思いつきと、ノリと運…

memo 0920/ひとと会う

同窓との再会がつづく 建築を熱く語る日々は過去 年相応の話題が大半をしめる 彼女らが母となったせいか 彼らと深酒をしないためか どちらも原因にはちがいない 今や母業と設計を兼務する彼女たち 逞しさと穏やかさが同居する 一方の同志たち ロンドンからの…

essay 0811

途方もない時間の結晶だった。空まで抜ける透明を、太陽に透かし見る。涙ほどの虹が輝き浮かんでいる。 「火と氷の国」といわれるアイスランド。氷河は、火山を覆って広がり、陸地の一割以上を占める。切り立つ氷壁、鏡のごとき魔術をみせる湖、空と大地を切…

日本語を書く作法・読む作法 阿刀田高 ☆☆☆

◆母語のこと ◇英語を母語とする人口は多くはないはずだ。アジアでは日本語、フランスやイタリアの山奥ではドイツ語が案外役立つ。言葉の地図を彩る筆は、統治の禍根だ。 ◇観光国アイスランドでは、警備員や主婦まで、誰しも英語が堪能だ。現地語を聞く機会と…

いろんな気持ちが本当の気持ち 長嶋有 ☆☆☆☆

・・・同じく、7月に読みっぱなしにしていました。おもしろかったこと、もっともだったことしか覚えていない、ちょっと情けない状況。本のタイトル探しのエッセイが面白かったような。

アイスランドへの旅 ウィリアム モリス ☆☆

「アイスランドへの旅」と私の旅のはじまり >>独立以前のアイスランドを、二度モリスは訪れている。本書は1871年、最初の旅の手記だ。当時37歳のモリスは一週間の船旅をへて、ポニーで島の西側を一か月ほどで巡った。海に浮かぶ、不気味な山のシルエット。…

あしたはアルプスを歩こう 角田光代 ☆☆

私には山の格好がよく似合う、そんな自負がある。空と大地を切り裂く滝へ、無数の虹を秘めた氷河へ、月面さながらの溶岩の平原へ。世界を凝縮した島、アイスランドでは予想以上に山の服装が活躍した。首都レイキャビクですらウィンドブレーカー姿だったから…

私の幸福論 宇野千代 ☆☆☆

幸せの言葉をきく 縁起のよさでいえば、私の苗字はまちがいなく世界一。一生手放すまい。名前負けしないよう、ちょっとした気負いがある。 「WLB」、「○○歳までにすべき○○のこと」、「○○力」云々。漫然と幸せへの強迫観念をかりたてるだけの標語にはくたびれ…

ふつうがえらい 佐野洋子 ☆☆☆

小気味よいヨーコ節、びしびし来ます。女性らしい生命力に満ちたやさしさを、そこに確かに感じます。 須賀敦子、森茉莉、佐野洋子。出自はさまざまですが、彼女たちの描く少女時代はとても生き生きと伝わります。須賀敦子の黄色がかった情景、森茉莉は父鴎外…

ときどき意味もなくずんずん歩く 宮田珠己 ☆☆

「そうそう、旅ってそうなんだよ」と相槌うったり。「やりすぎでしょ」と目を見張ったり。面白くもちょっと忙しいエッセイです。(読書倶楽部・K嬢推薦図書)

酒肴酒 吉田健一 ☆☆☆

それでは我々の舌は年をとるに従って荒れて来るのだろうか。それよりもむしろ、我々は先ず三色アイスクリーム、あるいは親子丼に眼を開かれて、次第に複雑な味を覚えていき、そこにも同じ境地を味わうことになるのに違いない。そこにも、であって、そこにだ…

棟梁 技を伝え、人を育てる 小川三夫 ☆☆☆

西岡常一棟梁に学び、鵤工舎で「ひと」と「もの」をつくってきた小川三夫棟梁。組織論、ものづくり論であり、伝統と創出へ手向けた言葉でもある。あらゆる世代と立場の読者を奮い立たせる語り。 時間について 「長い仕事は人を作るよ。/時間の重さに負けな…

都市の感触 [1987] 日野啓三 ☆☆☆☆☆

氷解。 あのころ―村上春樹の嘘くさいにおい、伊東豊雄の軽さと透明感。「地下のしみ」はその全てであった。実に、自分自身の感触として、ようやくわたしは80年代を諒解した。現実。 書きたかったものを読んだという鳥肌。ドッペルゲンガーは実在する。あの影…

本が崩れる 草森紳一 ☆☆☆

偶然手にした随筆で、物書きの正体を知らない。清潔感に欠く文章だ。言葉は立居振舞いの一部。著者の写真を見て納得した。けれども不思議と嫌いにはなれない。本が崩れるだけの日常劇のはずが、李賀の詩を呼び、秋田の旅路にいたる。崩れる本を見事払いのけ…

本に読まれて 須賀敦子 ☆☆☆☆☆

乳白がかったピンク色に、少し、藤色の斑がはいっている。慈愛と内省に満ちた石。そんな美しさを湛える須賀敦子のことばに、静かで深い感動を覚えずにはいられない。表層を流れることをせず、深く石に沁みいる水。嫋やかで気高い女性になりたい。

ホワット・ア・うーまんめいど ある映像作家の自伝 出光真子 ☆☆☆

二児の母、アーティストの妻、そして「男尊女卑が背広を着たような」かの出光佐三の末娘として。女であることを感じ、考えぬき、映像に託してきた出光真子。日米を行き来し、女の表現者として自己を確立した70年代を中心に描く。当時のフェミニズムの高まり…

覚えていない 佐野洋子 ☆☆

佐野洋子らしい爽快感がない、全くない。すがすがしさと、不快感は紙一重。