【講演会】浅野孝信さんにきく 世界一幸せな国「ブータン」と建築

身体感覚の距離感を思う

勤務先で講演会を企画しました。講師は、ブータンにて伝統建築の調査・保護活動に携わった浅野孝信さん。
空には気高き山がつきぬけ、彩りと躍動に溢れたチベット仏教の祭祀が魅惑的です。遠いこの国には、かつての日本をみるかのような村の営みが残っています。写真の数々に加え、鮮やかなブータンの衣装まで登場し、盛りだくさんの内容でした。

■幸せのカギは「距離感」
人と人、建築と人、伝統と生活、政治と国民。さまざまな距離が、身体で把握できるスケールにある―。

それが幸せの秘訣ではないでしょうか。

ネット上の露出過剰の人々。億単位、数年単位というお金と時間のやりとり。抽象と実在とに翻弄され、疲弊した日本人には得難いものです。

■建築と人、伝統と生活
バリアフリー化、耐震補強など、必死の手当てを城や寺に施す日本とは対照的に、ブータンでは増改築を繰り返し、ゾン(城郭)を役所や寺として使っています。建築と人、伝統と生活との関係は硬直してはいないようです。
それゆえ世界遺産登録ができないという悩みがあるようですが、その銘板にどれほど固執すべきかどうか。人が在り、生活が育まれてこそ建築だと、私は相も変わらず信じています。

ブータンの伝統建築は、日本の「結」のような村社会に支えられ、技術的には版築や軸組に似通います。その伝統は、険しい地形に今日まで守られてきましたが、言い方を変えれば、新たな技術や建材への門戸は閉ざされています。
ただそこには、地形のせいだけにはできない社会的背景もあるはずです。外国からの支援になれきったブータンで、国民の主体性はいかほどでしょう。
比較をするわけではありませんが、私は日本人のオメデタサを思いました。GHQの統治の後、時代の機運に恵まれて高度経済成長を遂げた日本。おそらく成長を己のものと自負していたわけで、大変オメデタイことです。
今、成熟社会を迎えた日本の諦め感とは異なる、保護された社会の怠慢がブータンにはあるかもしれません。

■人と人、政治と国民
しかし一般に、ブータン国王や官僚の志の高さには惜しみない賛辞が寄せられています。国の規模は練馬区程度。国王といっても、区長か市長のようなものだと思えば、メッセージが伝わるのも納得がいきます。人と人との、政治と国民の適正な距離。幸せの構造の鍵、ここにあり。

□概要
日時:2013年04月17日(水)
講師:浅野孝信さん(プロトスタイル(株)代表取締役
2011年より2年間青年海外協力隊に参加し、ブータン内務文化省文化局に勤務
歴史的建築物(城郭、寺院、伝統住居)の実測調査や、保存・修復計画など