エッセイ

ふふふ 井上ひさし ☆☆

突然ですが、ひとこと、 といった雰囲気に始まるテクスト。小気味よいユーモアと鋭さはさすがだが、政治ネタでは新鮮味が足りない。野球ネタも私には退屈。やはり、浅草フランス座などの芝居ネタ、作品づくりで蓄えた雑学ネタが、作者ならではで面白い。さら…

ことばの食卓 武田百合子 ☆☆☆☆

衒いのない正直な文章だ。連鎖する思い出も、些細な描写も、すんなり入ってくる。 子供の時分をかく武田百合子はこのとき、還暦を控えたころ。数々の想い出の中でも、「牛乳」「お弁当」が好きだ。予定調和的な懐かしさや共感を呼ぶ感傷ではなく、どこか子供…

ツチヤの口車 土屋賢二 ☆ 

帰省の度やることのない実家では、DVDをみるのもなんだか面倒で、本ばかりあさっている。説教くさい本が多いかと思えば、全く正反対に思えるエッセイがあるのが我が家らしい。一辺倒で露骨なユーモアは疲れる。

なぜ子供のままの大人が増えたのか 曽野綾子 ☆☆

若い人たちと、若者に教育をほどこしてきた世代について。どれもひとまず正しい。与えられるばかりで与えようとしない若者はたしかに多い。だが与えられないことに焦り、思考・行動停止になる若者もそれ以上にいるのではないか。 私のまわりには最近、母親に…

ワセダ三畳青春記 高野秀行 ☆☆

わが野方の女子アパートを思いました。よくあの模型だらけ、荒れ放題の部屋で生きながらえました。「彼女が自分の部屋に似合わない」の件にはぎくり。 先日素敵すぎる友人宅にお邪魔し、歳相応の人間らしい暮らしをすべきと改めて反省。

表現する仕事がしたい! 岩波書店編集部編 ☆☆

「択ぶことがわたしにとっては表現」奇しくも今日、一年ぶりに訪れたイシイコレクション・ご主人の言葉。(東京・青山、ブルーノートのうらにあります。)絵を描く、文を書くことばかりが表現ではない。対話であったり、つまらなくみえる仕事であったり、な…

春宵十話(ほか) 岡潔 ☆☆☆☆

およそふた種類の人間がいるらしい。教育者と実業家。ともに確かな眼と判断力をもつ。違いはその先、ただ一点だ。だがその一点が実に正反対なのである。 ひとをつくるひとのいうことには「真我になってこそ、人々は心が一つに溶け合うことが可能なのです」、…

心の青あざ サガン ☆☆☆

サガンの戯曲の主人公である兄妹の小説と、サガンの独白がたたみかけるテクスト。両面の距離感と表裏一体感が絶妙。 - フランス的な文学の嗜みも感性もないことは判っている。ブルジョワジーな奔放をまねたいと思うほど愚かでもない。それでも相も変わらずサ…

疲れすぎて眠れぬ夜のために 内田樹 ☆☆☆

日本人らしく、サラリーマンらしく、女性らしく。自己防衛機能としての「らしさ」。そこには自分らしさというマヤカシは並びえない。賛成。 - 試みに「らしさ」の英訳を考えるも、都合よい形容詞や助詞は見当たらない。「らしさ」を「型」と置換すると? sty…

崩れ 幸田文 ☆☆☆

72歳の幸田文が全国各地の「崩れ」を自ら歩き、見て、書く。普通なら圧倒されて終わってしまいそうな光景だろうに、生きている自然の営みから、ひとの内奥にある「物の種」まで、どこまでも描写と語りが続く。「季節のかたみ」の印象が強かっただけに、新鮮…

そら頭はでかいです、… 川上未映子 ☆

ごめんなさい。この本、珍しく途中棄権しました。 日常の中に気づきをくれる寺田寅彦が好きです、 文句と食べることばかりの内田百輭が好きです、 女性だったらかっこよすぎるサガンが好きです。 エッセイ、お気に入りリストは簡単には増えないみたい。

14歳からの哲学 ☆☆☆ 池田晶子

考えるために、考える、ということを考える・・・ (何歳からでも遅くはない、何回よんでも無駄ではない だから本当は迂闊には感想はいえないのです) - ○個人的感想「君はいま中学生だ。」その一言に始まり、雑念だらけの今から少しだけ(といっても「我が…

無趣味のすすめ ☆☆☆ 村上龍 

不確かな言葉が掲げられる世の中。「夢」や「自分らしさ」。いまだ思春期みたいだけれど、ことあるごとに反発してしまう。かといって具体的対処法があるわけでもなく、ひたすら目の前のことをやるだけ。本書はそんな私に、生温い安堵感もまやかしの叱咤激励…

ちくま日本文学034 寺田寅彦 ☆☆☆☆

エッセイの名手といえば内田百輭、秘蔵っ子といえば寺田寅彦です。今回再読し、80年前の彼の予見に驚きました。当たり前といえば当たり前の「教訓」なのですが、今の日本を言い当てており、今更ながら「ギクリ」としたわけです。とくに『化物の進化』におけ…

青春の忘れもの 池波正太郎 ☆☆☆

滅茶苦茶にみえて、どこかまっすぐな青春時代。戦争の時代にもかかわらず、どこかあっけらかんとした人々の姿が見えてくる。それは本当にそうだったのかもしれないし、池波正太郎の眼からみたからそうなったのかもしれないけれど。覇気のない今だからこそ前…

愛という名の孤独 F・サガン ☆☆☆☆

「悲しみよこんにちは」でデビュー、18歳にしてフランス文壇の寵児となる。その自由な生き方から生涯取りざたされたらしい。 本書は壮年期を迎えた彼女へのインタビュー集。自由、孤独、愛−彼女の真っ正直な言葉に、女性読者ならばとくに共感するのではなか…