小説
サガンの戯曲の主人公である兄妹の小説と、サガンの独白がたたみかけるテクスト。両面の距離感と表裏一体感が絶妙。 - フランス的な文学の嗜みも感性もないことは判っている。ブルジョワジーな奔放をまねたいと思うほど愚かでもない。それでも相も変わらずサ…
島を見たいのなら、その島を離れなければならない ・・・まだ海にでていないんだよ、 でも、もう海の上にいるわ(本文より)
「白の闇」が人々を次々と襲う。発症者や感染者の隔離に始まり、終いにはすべての人々がこの原因不明の失明におかされる。失われていく人間性、社会性、個別性、希望や未来、ありとあらゆるもの。一寸先の展開も読めず、果たしてどのような物語を導くのかと…
○個人的感想・歴史=人間を視る彼女を視る塩野七生、再開しました。RPGに入れ込みがちな私ですから、カエサルの登場はまったく、ハンニバル以来の大興奮を呼ぶわけです。戦役の詳細やガリア人のカタカナの族名など、ちっとも頭に入りませんが、とにかく一気…
不毛と偏執/グラディスとレオ/性と芸術 どのような距離感でもってこの小説を読みますか? - 映画製作を仕事としたことがあるプイグにとって、メロドラマや大衆小説は出自といっても差し支えないでしょう。ですが「ブエノスアイレス事件」は読みやすさから…
鳥肌をたてながら滑稽に思うかもしれない、 うなづきながら首をかしげるかもしれない、 倒錯はおそらく誰の中にもあるものだから。 - 女といってもいろいろ、男といってもさまざま でもここでは単純化してしまおう男性の描く女性がときに面白い、そう気づい…
なにを考えているわけでもない登場人物たちに好感を持った。期待していなかっただけに、あっけなく読み終えた自分自身に驚く。自意識の塊が登場人物にないことが、抵抗を持たずに済んだ理由だろう。団地のハシゴを登って行ってしまう母、なんてなかなかいい…
よくも悪くも思い切った作品。作家・林芙美子への興味から本作品を手に取ったわけだが、作中の芙美子像と実像の距離はさほど重要ではない。この作品は読物として成功しているのだから。(文学かは知らないけれど。) 修士論文で作家論にとりくんだ経験を思う…
ただ飛ぶ、その行為自体に価値を見出し極める孤高のかもめ。1970年に書かれ、ヒッピー文化と相まって大ヒット作となったこの作品に、共感できるだろうか。もしくはきちんと理由だてて反発ができるだろうか。それ以前に、少しでも理解できるのだろうか。 - 数…
妖艶で変化する味わいは贅を尽くした玉虫細工。あるいは巧みに編みこまれたレースだろうか。その網目に入り込み、少しひいて眺め渡し、さらに細やかなテクスチャを手に取る。実に不思議な体感を伴う。 - 実に見事な小説の構成。解説を読んでなるほどと思う。…
闇と光の相克が、風の叫びと銃声が人物を語り、 男の眼は時間を悲しみと怒りで染める。 「黄色い雨」での言葉の衝撃が、より激しく蘇る。 - リャマサーレスの言葉ほど、身体や時間をつなぎとめるものはないのではないか。歴史そのものでも、架空だけでもなく…
「マコンド」だ、「ウルスラ」だ、と興奮を交えながら読み進めた。 結局がっかりしたのですが。(まあ暇つぶし程度には面白いです。) - 地方の町、旧家の女三代記。伝説的な物語性と戦後の日本社会の動きとが(あまり乳化されることもなく)描かれている。露…
コンビニパンの包装をあける音、だいっきらいです。毎日、そんな味気ない音をたてて朝を迎えていませんか?現代人、サラリーマンのなれの果てです。(そういう私もバナナばかり食べているけれど、)本当は季節の彩とひとの手が入ったものを口にしたい。そこ…
戸籍管理局。そこでは無数のあらゆる名前が生と死に仕分けされ、「薔薇と菊とを半々に混ぜ合わせたような芳香の要素」が漂う。 あなた自身が果たして気づくだろうか。そのどちらに自分が入れられていようとも、何かの拍子にどちらからも自分が消えていようと…
朽ち果てていく村、苔がむしていくだろう体、死の息吹である黄色い雨− 言葉によって時間がこうも緩やかになり、早まり、濃くも淡くもなるものか。 そして空間はこれほど優しくも厳しくもなるものか。非常な衝撃を受けた。 - オースターやサリンジャーの柴田…
どこかシュルレアリスティックでミステリーめいた場面展開。都会っぽいのだが、かといって格別洗練されてはいない。シュルな作品は鼻につくか、キッチュかのどちらかに二分されると常々感じる。正直なところ、その2つを脱した作品には未だ出会っていない。 …
遠い国の物語には終わらない、ただの幻想に留まらない。 短かな物語の数々に、残酷な芯と優しい肌触りを感じた。 - おすすめは「この世でいちばん美しい水死人」。 綴られた時間はかくも美しく遡り、 語られない時間が物語を超えて延びていく。
図書館の中のボルヘス、ボルヘスの内の図書館。 入れ子の空間、「円環的」な迷宮、夢。彷徨いとまどろみの体験。 - 初の南米旅行に携えたけれど、アンデスの大自然にはおよそ似つかわしくない。ひっそりベッドで読もう。「円環の廃墟」「バベルの図書館」を…
獄中のホモセクシャルとテロリスト。 映画の語り、二人の対話、心中の対話が綴られる。政治的・社会文化的背景の読込みもできようが、 映画的な話の進行を単純に楽しんだ。 - 対話形式の表現手法にすっかり影響され、頭の中で擬似的な物語が始まった。登場す…
アニメだ。
1981年の作品。純然たるアメリカ小説。 ポストモダン版「大草原の小さな家」では、と思うのですがいかがでしょう。 - 小説にも流れる時代の空気は、私には実感が伴わない。だから単なる読み物として読む。アメリカ的というか、小学生のころのワイルダー「大…
ハバナへの複雑な思いこそ引力。遠い地の果てから、遠い過去から物語が引き寄せられ、縒りあわされて彼女のいま・ここ、マイアミへと至る。 女性にしかもちえない眼差しと感覚でもって描かれた一冊。(妙な表現だけれども)カクテルにたとえるなら、熱風すら…
同じく読書倶楽部でロングヒット。 心に深く負った傷、そこから始まる様々な問いー心からの反省とは、あるいは復讐とは、本当の救いとは。逡巡の帰着点は自分自身への痛いほどの疑い。それらが正面から描かれている。 - 小説らしい小説を久々に読んだ。(こ…
読書倶楽部にて大評判だった一冊。 世界観は比較的緻密だが単純、ゲーム的。今は懐かしいAKIRAや攻殻機動隊と大差ない。それでいて現実にひたひたと肌にへばりつくような気味悪さが残る。 作者は本作品執筆ののち、若くして病床生活を終えたという。たとえ続…
コロンビアでのジャーナリスト連続誘拐事件を描いた力作。地球の反対側、剣呑な国にあって現実味は感じられないものの、緊迫感にはのみこまれる。 出自であるジャーナリストとしての腕とノベリストとしての言葉の効果は絶妙。幾分の二重性も感じさせない。「…