2011-01-01から1年間の記事一覧

「おじさん」的思考 内田樹 ☆☆☆

本と本とがつながる。読み手=わたしのせいだろう、けれども、誰もが行きつく根深い日本の構造が厳然として在るためであろうと考える。「日本辺境論」では「それをいってはお終い」というごもっとも感が強かったが、本書はやや異なる印象。(関連書籍)「教…

知識人99人の死に方 荒俣宏(監修) ☆

夏の終わり、あらゆる虫たちの死が路上に播かれていた。機械のような腹をみせる蝉、硬い羽をもがれた黄金虫。カマキリは踏みつけられ、美しかったはずの蝶の羽はあばら骨を連想させる。その姿は、ひと夏を駆け抜けた魂の抜け殻と呼ぶに相応しい。「死にざま…

「想定外」の罠 大地震と原発 柳田邦男 ☆☆☆ 

「想定外」は免罪符ではない。この欺瞞にあふれた思考停止状態には現実主義やご都合主義、専門家の傲り、あらゆる言い訳が燻る。天災も、それに続く人災も、実はそういった人間の性質に起因するところが多い。肝心なのは案外、想像力を伴った身体感覚、なの…

第4回 yoku aruku

ひとまず、三日坊主にはならずに済みました。若干ビハですが第4回のyoku arukuをお届けします。今回は秋風美しい軽井沢から。 一気に書き上げたのはお酒と食の励ましによるものか、軽井沢で束の間のセレブ気分を得たためか?酔っ払ってて誤字脱字が多そうで…

崩れ 幸田文 ☆☆☆

72歳の幸田文が全国各地の「崩れ」を自ら歩き、見て、書く。普通なら圧倒されて終わってしまいそうな光景だろうに、生きている自然の営みから、ひとの内奥にある「物の種」まで、どこまでも描写と語りが続く。「季節のかたみ」の印象が強かっただけに、新鮮…

そら頭はでかいです、… 川上未映子 ☆

ごめんなさい。この本、珍しく途中棄権しました。 日常の中に気づきをくれる寺田寅彦が好きです、 文句と食べることばかりの内田百輭が好きです、 女性だったらかっこよすぎるサガンが好きです。 エッセイ、お気に入りリストは簡単には増えないみたい。

人生がときめく片づけの魔法 近藤麻里恵 ☆

「触った瞬間に「ときめき」を感じるか」がものを捨てるか否かの基準だそうだ。片づけとは「モノを通して自分を対話する作業」ともいう。片づけに美学と哲学があるとは思いませんでした。 - いわゆる実用書の類、めったに手にしません。読んだとしてもyoku y…

教育とは何か 大田堯 ☆☆☆

大田先生は人間を「分別」する存在だと位置づける。生涯にわたって選択をし続けるがゆえに、可能性は無限であり、同時に孤独へのベクトルを持っている。そのような「個」を超えた「種」の観点から教育が真正面から語られた一冊。 - どういうわけか人生論だと…

第4回 yoku aruku 予告

早くも路頭に迷いかねないyoku aruku。文字通りですから仕方ないのかもしれません。せっかく迷うなら前向きに。yoku yomuはすっかり定着しましたが、yoku arukuもまずはもういっかい、と回を重ねることが重要。(ムジールのエッセイズム的に、かな)気長にお…

第3回 yoku aruku

勉強の秋にふさわしい、まじめな一本を掲載しました。率直なおもいを書いています。少し恥ずかしいくらいでいよいのです。いつか振り返るときの起点になるから。

家の外の都市の中の家 展覧会備忘録

第12回ヴェネチアビエンナーレ 国際建築展帰国展 @東京オペラシティアートギャラリー0展覧会全般 展示の美しさはさすが。しかし建築家たちの視点は、私が建築を学びはじめた10年前(前世紀!)と変わっていないようでした。これほど国際情勢が変わり、日…

【追記】ローマ人の物語

・描ける「煙」、描き難い「空気」 昨日の読後感、性急でした。本で興奮するのも考えものです。性急さに性急さを重ねるようではありますが、追記。 日本の空気とローマの煙を並べたものの、妙なことを思ったものだと反省し始めました。日本に空気しかなくて…

ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前 ☆☆☆☆ 塩野七生

○個人的感想・歴史=人間を視る彼女を視る塩野七生、再開しました。RPGに入れ込みがちな私ですから、カエサルの登場はまったく、ハンニバル以来の大興奮を呼ぶわけです。戦役の詳細やガリア人のカタカナの族名など、ちっとも頭に入りませんが、とにかく一気…

14歳からの哲学 ☆☆☆ 池田晶子

考えるために、考える、ということを考える・・・ (何歳からでも遅くはない、何回よんでも無駄ではない だから本当は迂闊には感想はいえないのです) - ○個人的感想「君はいま中学生だ。」その一言に始まり、雑念だらけの今から少しだけ(といっても「我が…

ブエノスアイレス事件 ☆☆ プイグ

不毛と偏執/グラディスとレオ/性と芸術 どのような距離感でもってこの小説を読みますか? - 映画製作を仕事としたことがあるプイグにとって、メロドラマや大衆小説は出自といっても差し支えないでしょう。ですが「ブエノスアイレス事件」は読みやすさから…

三つのブルジョワ物語 ☆☆☆☆ ホセ・ドノソ

鳥肌をたてながら滑稽に思うかもしれない、 うなづきながら首をかしげるかもしれない、 倒錯はおそらく誰の中にもあるものだから。 - 女といってもいろいろ、男といってもさまざま でもここでは単純化してしまおう男性の描く女性がときに面白い、そう気づい…

◆2011年夏休み 独り気ままに映画三昧

■ペーパー・バード [Pajaros de papel] ☆☆☆☆ ちょっと生意気で可愛らしい子供、不器用な男、そして劇場。これだけ揃っておもしろくない筈がない。(ニュー・シネマ・パラダイスがよい手本。他にもあったような。)まんまとハマってしまう魅力あるストーリー…

無趣味のすすめ ☆☆☆ 村上龍 

不確かな言葉が掲げられる世の中。「夢」や「自分らしさ」。いまだ思春期みたいだけれど、ことあるごとに反発してしまう。かといって具体的対処法があるわけでもなく、ひたすら目の前のことをやるだけ。本書はそんな私に、生温い安堵感もまやかしの叱咤激励…

猛スピードで母は ☆☆☆ 長嶋有

なにを考えているわけでもない登場人物たちに好感を持った。期待していなかっただけに、あっけなく読み終えた自分自身に驚く。自意識の塊が登場人物にないことが、抵抗を持たずに済んだ理由だろう。団地のハシゴを登って行ってしまう母、なんてなかなかいい…

姉妹コーナー yoku aruku 開設

このたび主宰しています「もういっかい」HP上に 「yoku aruku」を開設いたしました。 当コーナー「yoku yomu」の姉妹コーナーとして 日々の街歩きを、気軽なテキストにしていく予定です。 「yoku o yogu」開設以来、迷走しておりますが ひきつづきよろしくお…

ナニカアル ☆☆ 桐野夏生

よくも悪くも思い切った作品。作家・林芙美子への興味から本作品を手に取ったわけだが、作中の芙美子像と実像の距離はさほど重要ではない。この作品は読物として成功しているのだから。(文学かは知らないけれど。) 修士論文で作家論にとりくんだ経験を思う…

かもめのジョナサン ☆☆?? リチャード・バック

ただ飛ぶ、その行為自体に価値を見出し極める孤高のかもめ。1970年に書かれ、ヒッピー文化と相まって大ヒット作となったこの作品に、共感できるだろうか。もしくはきちんと理由だてて反発ができるだろうか。それ以前に、少しでも理解できるのだろうか。 - 数…

日本辺境論 内田樹 ☆☆☆ ズルイ論、いや論ではない

丸山眞男のいうところの「きょろきょろ」している日本人。なにをやっても思っても、結局はこの「辺境論」に収斂してしまうのだから、なんだかズルイ。ただ、それでわたしたちの多くのことが説明されてしまうのだから致し方ない。 - 海外で活躍する友人が何人…

見えない都市 イタロ・カルヴィーノ ☆☆☆☆☆ 贅をつくした玉虫細工

妖艶で変化する味わいは贅を尽くした玉虫細工。あるいは巧みに編みこまれたレースだろうか。その網目に入り込み、少しひいて眺め渡し、さらに細やかなテクスチャを手に取る。実に不思議な体感を伴う。 - 実に見事な小説の構成。解説を読んでなるほどと思う。…

取材始動

中野周辺に住まうこと、10年。近いが故に訪れる機会をつくらなかった、某作家宅。近日、アップ予定。女性作家と建築家。これ、既視感のある構図ではありません?

某 ☆☆☆☆

庭。それに喚起される言葉は広い。 建築。その箱につい自らを閉じ込めがちなわたしたちを、すっと解き放つ一冊。 境界、時間、都市の余白、かたちのないもの、デザインしきれない部分、人々を引き寄せるなにか。そして束の間の純粋な気持ち。 - 久々の前向き…

名づける、とくに動詞

言葉ひとつを忘れないようにしたい。スケッチ上に堂々と! 名づけて初めて認識できる。とくに動詞は想像を喚起する。 (つなぐ、みせる、なんでもいい。単純ならば。) そしてようやく、言葉によって他者との共有を果たすのだ。

取材

前向きな気分だ。どこかに足をのばして書きたくなった。早速、仕事も兼ねてとある郊外の街へ。記事風に書いてみた。(事情により未公開。近日アップ予定。) 書くのは楽しく、そしてこわい。すっかり睡眠不足だ。次いでひとつ改めて認識したこと。「なぜこう…

狼たちの月 フリオ・リャマサーレス ☆☆☆☆

闇と光の相克が、風の叫びと銃声が人物を語り、 男の眼は時間を悲しみと怒りで染める。 「黄色い雨」での言葉の衝撃が、より激しく蘇る。 - リャマサーレスの言葉ほど、身体や時間をつなぎとめるものはないのではないか。歴史そのものでも、架空だけでもなく…

赤朽葉家の伝説 桜庭一樹 ☆☆

「マコンド」だ、「ウルスラ」だ、と興奮を交えながら読み進めた。 結局がっかりしたのですが。(まあ暇つぶし程度には面白いです。) - 地方の町、旧家の女三代記。伝説的な物語性と戦後の日本社会の動きとが(あまり乳化されることもなく)描かれている。露…