2013-01-01から1年間の記事一覧

世界を変えた10人の女性 池上彰 ☆☆☆

お茶の水女子大学での講義を収録。講義のまとめとして「世界を変えた女性たちの多くに共通する資質とは何か」を学部・学年を異にする学生たちが論じている。わたしは「自由」だと思う。逆説的に聞こえるかもしれないが、直感はそういう。直感は往々にして正…

あしたはアルプスを歩こう 角田光代 ☆☆

私には山の格好がよく似合う、そんな自負がある。空と大地を切り裂く滝へ、無数の虹を秘めた氷河へ、月面さながらの溶岩の平原へ。世界を凝縮した島、アイスランドでは予想以上に山の服装が活躍した。首都レイキャビクですらウィンドブレーカー姿だったから…

真昼のプリニウス 池澤夏樹 ☆☆☆☆

アルプスの話を書いて、しめっぽくなった。やさしく、けれども気高くありたい。 「真昼のプリニウス」の主人公は、その不器用な生真面目さが私に通じる。火山学者である彼女のアイスランド留学の計画、水泳をする何気ないシーン。そういったひとつひとつにも…

ディズニーの隣の風景 オンステージ化する日本 ☆☆☆

なにかもがイベントだ。農業、山歩き、料理、飲み会。当たり前だったはずの生活が、すべて商品化されている。そう仕立てなければ人の関心が向かない、商売にならない、自分の意味がない。強迫的な連鎖。「オンステージ化」する日本に辟易している。 幸い、ア…

私の幸福論 宇野千代 ☆☆☆

幸せの言葉をきく 縁起のよさでいえば、私の苗字はまちがいなく世界一。一生手放すまい。名前負けしないよう、ちょっとした気負いがある。 「WLB」、「○○歳までにすべき○○のこと」、「○○力」云々。漫然と幸せへの強迫観念をかりたてるだけの標語にはくたびれ…

国家の品格 藤原正彦 ☆

岡潔の焼き直し。西洋を知った数学者の典型です。村上陽一郎の「教養」、藤原正彦の「品格」など、わたしには仰々しくマニッシュな思考に思えて、日本人的「情緒」は退散しそう。なにも語らず掲げず、慎ましく凛とありたい。と、ちいさく反発しても、藤原正…

風葬の教室 山田詠美 ☆☆☆☆

「鳥獣戯画という素敵な絵を社会科の教科書で見たことがあります。先生が黒板に私の名前を書いています」 唐突にはじまるドラマは、急激に深度と硬度をまし、読み手自身の過去に食い込んできます。

アイスランド小史 G・カールソン 早稲田大学出版部

□観光立国 極東の島・日本から9,000キロ。北西の最果て島・アイスランドといえば、火山と温泉、大地の裂け目「ギャオ」、オーロラ。大自然を武器に観光産業が盛り上がっています。(森林は殆どありません。開拓時代に耕し尽くしたせいだそうです。)今回は真…

ふたりのイームズ ☆☆☆

ふたりの物語は、アメリカの時代そのものの体現する。世界大戦が生んだ技術史、大戦後の女性史、そして冷戦がつくったメディア史。かれら自身をもふくめたすべてが作品であり製品だ。 画面構成はポップ、作品構成はシンプルにして、デザインをとりまく問題を…

ふつうがえらい 佐野洋子 ☆☆☆

小気味よいヨーコ節、びしびし来ます。女性らしい生命力に満ちたやさしさを、そこに確かに感じます。 須賀敦子、森茉莉、佐野洋子。出自はさまざまですが、彼女たちの描く少女時代はとても生き生きと伝わります。須賀敦子の黄色がかった情景、森茉莉は父鴎外…

36°5

幡ヶ谷のライブハウスにいってきました。高らかに想いを歌う、男たち。うん、物語はつくるものだ。

ヴァレンタインズ オラフ・オラフソン ☆

あるものは留まり、またあるものは異国に絆を育む。自己と他者を内省する、12の恋人たちの短篇集。身体と精神を包むのは殻だろうか、膜だろうか。帰るところの家族とは、故郷とは。・・・・・・・・・・ 異色の作家への期待に反し、残ったのは倦怠感。こう…

【講演会】浅野孝信さんにきく 世界一幸せな国「ブータン」と建築

身体感覚の距離感を思う勤務先で講演会を企画しました。講師は、ブータンにて伝統建築の調査・保護活動に携わった浅野孝信さん。 空には気高き山がつきぬけ、彩りと躍動に溢れたチベット仏教の祭祀が魅惑的です。遠いこの国には、かつての日本をみるかのよう…

遠い水平線 タブッキ ☆☆☆☆

時間のにおい 一寸、私は指先を舌でしめらし あるはずもない風へとかざすけれど 仕組みはわからずして そうなることはしっていて 遠い遠いのはどの感覚 漕ぐように時をすすむことを そよぐように時のすすむことを 水平線は瞳から遠く逃げ その隙間に私がいる…

【建築探訪】森鴎外記念館

□DATA 設計:陶器二三雄 東京都千駄木/文化施設・公共施設 2013年竣工/4月21日見学

BOOK LIST

A・タブッキ、3冊もかってしまったよ。旅の途上のまどろみから、まどわされ、まよいこむ―「インド夜想曲」、「逆さまゲーム」の忘れがたい体感。イベリアの巨匠たちがまっています。サラマード、リャマサーレス。ベッドサイドが崩れそう。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹  ☆☆

時間と場所。断たれつながり、遡り、また流れる。 短い小説ではありますが、たたまれた時間と場所に身を委ねて読めました。 予想通り、登場人物の自意識に毎度の疲れを感じますが、今回は主人公に若干の共感―年齢や「つくる」ことへの体質―はあったかもしれ…

【建築探訪】A書庫

都内某所、個人宅。といっても住まうのは、1万冊におよぶ書籍、そして時間と場所を遡る施主の記憶です。量塊にうがたれたこの空間は、施主と建築家との4作品目の協働にして、はじめての新築。トークセッションに参加しました。□ヒューマンスケール 重量感…

三島由紀夫レター教室 ☆☆☆☆

手紙のやりとりで構成された群像劇。渦巻く感情と思惑、ベタな恋愛があれば、ちょっとしたサプライズもあって、愉快痛快。(読書倶楽部推薦図書) ・・・・・・・・・・・・・・・・「今の若い人は、言葉以外の経験のところで詩の感覚をつかんでいくんじゃな…

ブータン、これでいいのだ 御手洗瑞子 ☆☆

“ブータンってみんな幸せそう―現地で公務員として働いた著者が語る、「幸福」の国の秘密”(カバーコピーより)・・・・・・・・・・・・・・・・講演会の企画にあたり、ブータンのにわか勉強をはじめた。軽い語り口だが、「なるほど」と納得する知見もある。…

ときどき意味もなくずんずん歩く 宮田珠己 ☆☆

「そうそう、旅ってそうなんだよ」と相槌うったり。「やりすぎでしょ」と目を見張ったり。面白くもちょっと忙しいエッセイです。(読書倶楽部・K嬢推薦図書)

ペンギン・ハイウェイ 森見登美彦 ☆☆

「泣くな、少年」 郊外の新興住宅地に突如あらわれたペンギンたち。単なる珍風景ではすまなかった!つぎつぎにつながるたくさんのエレメント。それはちょうどワームホールのように。個性的で、でも「たいへん」親近感のわくキャラクターが織りなす一夏のファ…

犬と鬼 知られざる日本の肖像 A・カー ☆

判っていることを悉く言い立てられるのはいい気がしないもの。「日本は日本でなくなった」―この国の誤った近代過程を糾弾する名著。・・・・・・・・・・・・・・・・予測されたことだが、本書の一字一句を追えなかった。 現実。ものをつくろうとしても、本…

聖の青春 大崎 善生 ☆☆

一手、一局、すべてが命がけの覚悟。重篤な病をかかえた棋士・村山聖は、まっすぐに将棋盤に向かい、師匠と仲間と向き合い、己と対峙する。力強く、はかない。 (新潮学芸賞/ストイックランナーMさん推薦図書)

アンデスのリトゥーマ バルガス=リョサ ☆☆☆☆

理解を超える異物。変移のない隔絶。それほどの他者に出会うことがあるだろうか。その境界の絶対性を、どこまで信じうるだろうか。■他者 土着文化と征服者の西洋文化は、ラテン文学において本質的な矛盾を孕みながら相克する。本作品は、その宿命的な構図を…

終わりの感覚 ジュリアン・バーンズ ☆☆

歴史とは、不完全な記憶と文書の不備から生まれる確信である。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ このくだりがすべて。けれども、作品の妙な軽さをどう扱えばいいのだろう。戸惑いを解消できぬまま、荒々しく物語が駆け抜けた。

オケ老人 荒木源 ☆

誤って入団したオケは老人だらけ!まんがを読んでいるような軽快さとキャラ立ちでした。それにしても、登場人物たちが、みなクサクサマジメ。作者の人柄なのかしら?(読書倶楽部Uさん推薦図書)

仕事日記をつけよう 海保博之 ☆

三連休!晴れのナカ日はメンテの日。仕事もあるけど、とりあえず。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ このごろ愛用、区立図書館。新書や実用書、ふだん読まない本を手に取って、目次とゴシックフォントを拾い読み。 根っからのメモ魔だけれど、メモを読み返…

コンプライアンスが日本を潰す〜新自由主義との攻防〜 藤井聡 ☆

アメリカ・新自由主義への服従がもたらす日本崩壊のシナリオ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 建築が大量生産品ではない以上、市場の競争原理に価格の適正化を期待するのは乱暴だ。著者は、建設業における談合は日本社会全体にとっての必要悪、いや悪で…

錬金術師通り 五つの都市をめぐる短篇集 池内紀 ☆☆

東欧の街に穿たれた無数の孔。埋め込まれた記憶が、幻想が、ひとつふたつと照らしだされる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 身体から遊離した微睡(まどろみ)の感覚。塊となる灰色の雲のもと、石畳におちる影を踏み、「東洋のプロフェッサー」は人々を…