2012-01-01から1年間の記事一覧

戦前日雇い男性の対抗文化―遊蕩的生活実践をめぐって― 藤野裕子

■戦前日雇い男性の対抗文化―遊蕩的生活実践をめぐって― ■〈実践〉の世界へのアプローチ 藤野裕子氏の本研究は、「男性労働者の遊蕩的で無頼的な生活実践の裏に「男らしさ」の価値体系が通流することを明らかにし、それを通俗道徳の欺瞞性に対する対抗文化と…

貧乏サヴァラン 森茉莉 ☆☆☆☆

鼻につくというか、鼻もちならないというか、それでいて、あるいはそれゆえ、愛さずにはいられない。こんな一文がある。欧羅巴人が鳥や獣の肉を食いちらし、獣の血のような葡萄酒の杯を傾ける、一種執拗な、重い感じは、欧羅巴の絵や彫刻、文学、音楽、すべ…

文明のなかの科学 村上陽一郎 ☆☆☆☆

◆カインとアベル カインとアベルは昼食をともにしていた。明治通りの華屋なるB級中華料理屋。そこで30をとうに過ぎた大人ふたりが、名物の麻婆豆腐を口にするのも忘れ、ディスカッション、というよりは喧嘩を始めた。「Why?」が口癖のカインは顎が割れ気味…

腐れ縁のなれの果て

孤独歴の長い私にも腐れ縁というものがある。まずは早起き君、それに続くは不眠君に深酒君、最後に本の虫である。輩がすっかり結託し、今日はまこととんでもない事態となった。本を2冊、小論記事2本を読了。先日、早稲田でのアカデミックな夕食が直接の刺…

建築家の講義 ルイス・カーン  ☆☆☆

本気で「本質」を問うこと、長らく忘れている。 公共住宅の設計に充てた前半生、そして1951年以降のモニュメンタリな作品。それを必ずしも異色だとは思わない。当時のアメリカ社会を真っ当に受けた経歴だと想像する。が、実のところカーンを全く知らず、彼自…

デンマークのにぎやかな公共図書館

もっとも成熟した図書館制度をもつ国、デンマーク。「平等」「セルフヘルプ」という社会理念が、図書館の在り方にも通底している。 本を読み比べる限りでは、先のスウェーデンの図書館との決定的な違いは見受けられなかった。印象的なのは、両者がマイノリテ…

読書を支えるスウェーデンの公共図書館 

19世紀後半から20世紀初頭、民衆による社会改良運動の中で生まれたスウェーデンの図書館。多民族国家となった現在は(移民等スウェーデン人以外の国民が約2割を占める)、「自分の言葉を持つ」権利を保障するシステムでもある。図書館を取り巻く問題は多岐…

がんばりません 佐野洋子 ☆☆☆☆

ちょっと卑屈な自分を笑っちゃう、この小気味よさ! 「本好き女の離婚確率」なんてのもあるけれど、いまじゃあ「本好き女の孤独確実」なわけ。「ふとんを生涯の伴侶」にわたしも、ときどきわめいたって、まるまってたって、いいじゃない。

東東京 雰囲気の建築

ドイツ、韓国からの客人があり、普段は足を踏み入れない東東京に通いました。 ◆両国 国技館 9/17 江戸時代の大衆文化、非日常性を演出するのに過剰な設えは不要だと知りました。ここでは、入口を入ってせいぜい垂木を思わせる天井が浮いていたくらい、十分で…

生きるための建築展 @東京都美術館

◆二週連続の上野 先週はマグロ丼、今週は伊勢ろくの親子丼。武田百合子のエッセイをおもいながら秋の上野を歩く。独特の雰囲気がたまらない。◆生きるための建築展 ドイツからの友人、アーキテクトと鑑賞。彼女は昨日「塔の家」を訪れたという。今も昔も本質…

ベルリン国立美術館展 @国立西洋美術館

エクリュの体温、ライムストーンのいだく時間―私の出会ったフェルメール『真珠の首飾りの少女』。私はその、穏やかに自身として在る壁を、ただ見つめるのみでした。心優しき部屋の主に挨拶をすることすらせずに。 ◆ベルリン国立美術館展 会期終了間際の日曜…

こどもたちが学校をつくる Peter Huebner

ゲルゼンキルヘン・ビスマルク総合学校ができるまでのドキュメント。生徒参加を超え、生徒主体で学校がつくられました。かつて炭鉱の町として栄えたルール地方のこの学校では、プロテスタント教会の私立でありながら、イスラム教の生徒(トルコ系住民)が3…

やればできる学校革命 武藤義男・井田勝興・長澤悟

福島県三春町。1980年代から十数年にわたる、町の教育・学校づくり。教育者と設計者による記録、文中に挿入された生徒や保護者の手紙など、「学校」という社会を複眼的にとらえるヒントとなる。 「子どもとしての生き方に怠惰」になっている、という武藤氏の…

独立国家のつくりかた 坂口恭平 講談社現代新書 ☆☆

味見 出来合いのケチャップにソースと醤油をぶちまけたよう。表現といい、書く姿勢といい、非常にマズイ。が、ともかく騙されたと思って食べてみた。味はさておき、「独立国家」をつくってしまう行動力には舌を巻く。それは既存の常識社会にうまくパラサイト…

夏休みは終わりです!yoku yomuも新学期

なんとなく心落ち着かず、さぼり気味でしたyoku yomu。新学期、着工、友人の渡欧、夏の終わりを告げる雨。これだけ揃えば、そろそろ私も始動しなくてはなりません。本気で考えなきゃならないことは山積しているけれど、まずは古巣のyoku yomuから再活動。

鈍感力 渡辺淳一 ☆☆

今更よんだ「鈍感力」。わたくし個人にもっともかけた能力がまさしくこれなのは重々承知であって、できることならとっくに身につけているわけだし、本に処方を求めたわけではないが、それにしても鈍感力万歳をしているだけであまり役には立たない一冊。悲劇…

ひとり日和 青山七恵 ☆☆☆

好感のもてる素直な小説。単純ではなくとらえやすくもない二十歳の主人公の視線に、思わず自分のそれを重ねてしまう。 それにしても本屋に平積みにされた文庫をみると、ほんと「ひとり」だらけの日本なんだな。私は、梶井が檸檬を置いた、あのころの本屋にい…

土地と日本人 司馬遼太郎(対談集)☆☆☆(まだ読んでいる途中…)

学生のころちょっとヤクザな恩師に言われたのは「100マンあったら土地をかっておけ」。かかりつけの漢方医にいわれたのは私は「土地」業?に縁があるらしく(この放浪癖からして全くそうとは思えない)、今、父に私が言うのは「家もいいけどまずは土地」…

旅先の本 「11分間」☆☆☆ 「自由の牢獄」☆☆☆☆☆

「11分間」コエターリョ☆☆☆ 読み終えて半月がたった今、九月となっては、実はさほど印象に残っていません。 「自由の牢獄」M・エンデ☆☆☆☆☆ 空間のゆがみ、夢の引力。凝縮された世界は果てしない磁場を得て、身体にも精神にも食いこみ、消えることがありま…

アカシア・からたち・麦畑 佐野洋子 ☆☆☆☆

子供はけっして無邪気な天使ではない。小賢しさがまだないために、無垢の不気味さを抱えている。それをえがける大人は、鋭さと豪胆さを備えた女性たちだけだなあ。佐野洋子、武田百合子、そして誰だろう?

カラヤン 自伝を語る ☆☆

十年ぶりに「アマデウス」をみたあと、同郷の帝王、自らを語る。ワンマンな組織統率力。これほど確信漲る言葉をきいたことはない。ぎこちない邦訳が手伝い、カラヤンの異様さが際立つ。堅牢で排他的な地形、大司教たちが権威をみせつけた異形の町並み、ハプ…

祝祭の都ザルツブルク 小宮正安 音楽之友社 ☆☆☆

見立てなど、難しいこというなかれ。街そのものが文字通り劇場、市民はまさに立役者。果たしてそのザルツブルクの今は。高まる期待。MEMO=1920年大聖堂前でのイエーダーマン/フェルゼンライトシューレ改造/1840年没後50年モーツァルトの再評価熱(対ナポレ…

銀ヤンマ、匂いガラス 松山巌 毎日新聞社 ☆☆☆

昔懐かし、夏休みの気分になりました。記憶は脳裡だけではなく、五感のすべてに宿るもの。

ウェイティングリスト 8月

銀ヤンマ、匂いガラス/カラヤン/旅ではなぜかよく眠り/小澤征爾さんと、音楽について話をする/人はなぜ日記を書くか/11分間/そのたイロイロ仕事だけじゃない。半端な積み残しが多いのは読書も同じ。一気に解消できる予定もなく、一気に解消するやる…

ミャンマーの柳生一族 高野秀行 集英社文庫 ☆☆

2004年、ミャンマー。珍道中を通し、江戸の武家社会然とした当時の政権、社会が浮かび上がる。どこか書き切れていない感があり、とくに人物描写は厚みに欠くものの、相変わらずの高野節。

リスト 生涯篇 属啓成・音楽之友社 ☆☆☆

テーマに使おう。私が作家だったなら、そう衝動に駆られたはずだ。だが楽曲の壮大さゆえ、自分の乏しい才を嘆く羽目になるかもしれない。リストの前奏曲は脳を奥底から突き動かす。神経質そうな肖像が色あせていて、そこは小学校の音楽室の壁だ。リストの作…

鉄の骨 池井戸潤 ☆☆☆☆

良質なエンターテイメント。加速するストーリー展開は心地よく、そこにさり気なく張られた伏線は実に上手い。 読み始め、小説のリアリティをついつい査定してしまったゼネコン勤めの私も、いつのまにかドラマにのめり込み、一気に読了。

トスカーナの休日 フランシス・メイズ ☆☆

アメリカの大学で教職につき、詩人である主人公が一念発起、トスカーナに草臥れた家「ブラマソーレ」を買う。休みのたび、地元の職人とやりあいながら理想のわが家とし、庭にたわわになる果実で目と舌を楽しませる。と、小説だと思って読み進めましたが、実…

日本語と日本人 司馬遼太郎(対談集) ☆☆☆

赤尾兜子との対談。和語のしなやかな表現で、リアリズムに徹した正岡子規について。日本文学における彼の特異性をしる。のみならず、厚みがあり、やや屈折する人間性に惹かれた。これは子規をあらためて読まねば、と思う。 家賃と同じくらい、日々の刺身に金…

ヴェネツィアの宿 須賀敦子 ☆☆☆☆☆

大事に、大事にして読んだ。ために、予定より一週間ほど遅れる。彼女の意志の強さをかみしめ、記憶を自分のそれと重ねたどるように、あるいは底のしっかりした靴で石畳を歩くように、古本の粗く黄ばんだ紙を繰るように。語られる言葉と読む行為とが、ひとつ…