犬の婿入り 多和田葉子 ☆☆☆

ペルソナ ☆☆☆☆ 自分の過去と重なるところが多すぎたとはいえ、軸のある良質な小品であることには間違いない。 子供たちから向けられた悪意の眼差し、残忍さを湛えた薄い唇から発せられる慇懃な言葉。不気味な部位がキメラとなり、虚ろな時間の奥に潜む。70…

○に近い△を生きる 鎌田實 ポプラ新書 2013 ☆☆

十年後は見えない。建築の未来も、目の前の施主に差し出すかたちも見えない。○を目指すはずが焦りに終わる。 ・△を生きることは新しい知恵ではない。土と火から器をつくり、季節を食に再現する田舎暮らしも△のバランスにあるし、戦後、模索と失敗を重ねた祖…

14/04/02 静岡美術館めぐり 

・天竜浜名湖鉄道 ・秋野不矩美術館 藤森照信 ・芹沢介美術館(石水館)白井晟一 ・登呂公園・駿府公園ぽっかりあいた平日の一日、急遽ふだん通り過ぎてしまう静岡へ。ふたつの美術館を訪れました。鑑賞者や素材へのアプローチが対照的な作品。丘の淵にたつ…

秋野不矩美術館

春麗らかな四月のある日。桜とのぼり旗が交互に並ぶ川べりを、物見櫓が見渡しています。物見櫓というにはいささか大きく、アイゼナッハの要塞のようですが、幽閉されたルターを思わせる不気味さは全くありません。松の木に囲まれ、すこし傾げた表情がおおら…

石水館

どんよりとした空はついに雨空となりました。登呂公園の南端、住宅地と隣接した角地に、石水館はあります。垂れ込める雲よりもさらに身を沈め、とらえどころのない姿。すこし驚いて入口へと向かいました。 ・アプローチをくぐると、陰鬱に聞こえたはずの雨音…

天竜浜名湖鉄道・登呂公園・駿府公園

天竜浜名湖鉄道(掛川〜天竜二俣):春を感じる一時間のんびり列車。線路の両側に桜、田んぼや茶畑、昔懐かしの駅舎が次々にあらわれ、天竜二俣駅にはSLの保存展示もあります。おすすめ。私、実はテッチャンです。ランチ:どっさり刺身定食1200円。どれ…

供述によるとぺレイラは… A.タブッキ ☆☆☆☆☆

ぺレイラはわたしかもしれない。母、あるいは妹かもしれない。リスボンの一市民、ある男。肥満したからだの内奥で、レモネードでごまかしてきた、「生のない生」。ゆすぶられ、ほころんだ糸は、ついにその先の精神の塊を、閉じた軌道から放つ。個人の精神、…

14/03/30 石山さん退官記念シンポジウム 「これからのこと」大隈講堂

建築という物語、そして一人ひとりの「これから」石山修武がよくわかる会だった。建築の講演ではない。テーマは「これまでのこと」ではなく「これからのこと」、かたちのない未来なのだから。(鈴木さんの逝去が心から惜しい。磯崎さんが体調を崩して欠席さ…

密林の語り部 バルガス=リョサ ☆☆☆☆

はじめに言葉があった。世界という名の物語がそこから生まれた。アマゾンの密林、ユダヤの星のもと、こおろこおろとかき鳴らした海にも。「緑の家」の幻惑とは違う、畳み掛ける言葉と、重なり合った時の流れだった。リョサは私を励まし、くじけさせる。夢を…

サービスを超える瞬間 高野登 ☆

設計も家事も、もてる最高の感性と心からの喜びで行いたい。でも与える偽善に陥らないよう、与えられることへの気付きを忘れず、ありがとうといいたい。「心づかい」が「サービス」というビジネス用語となってひさしい。24時間ぎらつくコンビニ、歩いてい…

小川洋子

カラーひよことコーヒー豆 2009 ☆☆☆ 失われていたものを手に取る感触。懐かしさではなく優しさ。そよ風のような親しみで、私はすっかり好きになった。夜明けの縁をさ迷う人々 2007 ☆☆☆ 偶然の祝福 2000 ☆☆☆☆ 日常の隙間にある物語。歪みも優しさも何もかも、…

小さい伝記 植田正治 ☆☆☆

「この人は本当に写真が好きなんだな」「やさしい人なんだな」。写真をぱらぱらと繰って父が言った。ポートレートを中心に相当数の作品が収録され、植田正治の飾りのない言葉がつづられた作品集である。作品として、写真の構図や人物の表情(笑顔、はにかみ…

雪男は向こうからやってきた 角幡唯介 ☆☆☆☆

新年初の一冊がまさか「雪男」とは自分自身おどろいている。ただ、キワモノのバラエティ番組(年末年始に多い)とは全くちがう。角幡さんらしい、客観的で少し理屈ぽい視点が余すところなく発揮されたドキュメンタリーである。雪男伝説は、現代の高度なメデ…

御社の営業がダメな理由 藤本篤志 ☆

実家で拾った。新入社員のころ妹が読んだものだろう。営業論を設計論にそのまま翻訳することは難しいが、一般的な組織論にはなりそうだ。いわく、営業結果=営業量×営業能力 営業量=営業時間―(意識的怠慢時間+結果的怠慢時間) 営業能力=営業知識量+営…

ぬるーい地獄の歩き方 松尾スズキ ☆☆

ぬるくても、熱くても、地獄をかたる人々はどこか自虐ヒーローめいて、悲壮感を感じられない。客観的に自分の状況をみているからだろう。品の悪いところが多々ありますが、面白く読んだ。

selbstgespraech DEC

ほんとにほんとにそろそろ総決算 冬至のころ、毎年のなやみ 何を読んで「歳」を越そう? まずは積み残しの読書メモ、その整理から

パンツの面目 ふんどしの沽券 米原万理 ☆☆

傘をさす雨ふりの朝、月に一度のものがくる朝、寒くて着ぶくれをする朝。技術が発達しても日常生活は案外、原始的なままだと感じることがあります。 何の疑いもなく身に着けるパンツ、ふんどしは、まさに原始的で永遠の関心事。体に一番距離の近いものである…

ライカでグッドバイ―カメラマン沢田教一が撃たれた日 青木冨貴子 ☆☆☆ 

沢田教一を終いには銃弾へと導いたもの。それは大仰な使命感でも明確な目的意識でもなく、抗えない引力でした。物語は自らつむぐらものではない。はじめに定まっていて、そして後から見出されるもののようです。彼をはじめ、ジャーナリストやカメラマンが大…

人生ベストテン 角田光代 ☆☆☆

「登場人物たちと同じ行く当てのなさを僕自身も抱え込んでいる」。帯にかかれたイッセー尾形の言葉はそのまま私に通じた。角田光代の小説の心地よさはある種の連帯感だ。現代的、都会的で、希薄な人間関係とおきざりの内面。日常のちょっとした突起物にはじ…

selbsgespraech

30目前のひとりごと よい旅をいただき よい彩をあじわい 仕事に向き合う 機会を得ました ラストスパートをがんばりたい

TVピープル 村上春樹 ☆☆☆☆

たどっていたはずの真っ当な道筋は、やがて理の通らない次元をゆく。 微妙なズレに覚える違和感。それもじきに立ち消え 理のとおらない時空こそ、本来だったと受け入れる。 いびつな土壌をもつマルケスやリョサとの違い 理が変容していくさまが村上春樹らし…

TPP入門 日本経済新聞社

野田政権時代の解説本。少々古いのですが入門にはうってけでした。PRO/CONがまとまっています。グローバル化による、あらゆる側面の勝敗。国民をまもってきたネイションは解体し、世界を舞台に個人戦がはじまっています。 国家としての旧態からの脱却できず…

空白の5マイル 角幡唯介 ☆☆☆☆

チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑むバネのある力強い瞬間、共鳴し増幅する男たちの物語。ツアンポーとその流域「空白の5マイル」に文字通りのみこまれるようにして読んだ。植村直己にあこがれた幼いころとはちがう。私は、井上靖「天平の甍」の業行…

葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午 ☆

いけすかないなーと読み始めてそのまま終わった小説。書き言葉ならではの、小説の前提を覆す構成は面白いのですが、一発屋というか、ルール違反というか。私はやはり、オースターのような緻密さを求めます。(週末ミュージシャンMA氏推薦図書)

あこがれの扉をあけて

秋冬の小旅行をたのしみにしている。はからずも中高時代の修学旅行の地を訪ねることになった。もう、遠いむかしのこと。懐かしのというよりは、再び憧れの扉をあける思いで、本を流しみている。

NHK美の壺/枯山水 ☆☆ 13/10/29

<晩秋、具象と抽象の狭間へ>中学の修学旅行は奈良・京都だった。お得意の旅程つくりと、苦手の行動班つくりで必死だったから、寺社や庭園の予習なんて思い至りもしなかった。空っぽの頭とこころでみた枯山水はどうだったのだろう。 中途半端な知識と委縮し…

NHK美の壺/長崎の教会 ☆☆ 13/10/31

<早春、長崎の玉手箱をたずねて>高校の修学旅行は巡礼の旅だった。広島、萩、長崎と、人々の想いの跡をたどり、みなでハレルヤを歌う。ほかにおぼえているのは教会建築だ。広島の世界平和記念聖堂は、厳かな篤さへの畏れ 長崎の日本二十六聖人殉教記念館は…

とおりすがりの本たち

譲ってもらったり、食事を待つまに手にとったり。腰を据えて本と向き合えないときは、そんな出会いがうれしい。

ひとり暮らし 谷川俊太郎 ☆☆ 13/10/27

ふたり暮らしをはじめた同期が残していった一冊。 「葬式には未来というものがないから何も心配する必要がない」と谷川俊太郎はいう。葬式をあまり知らないが、私も結婚式は苦手だ。演出が欺瞞と商売っ気に満ちている。 物語には救いを、人生には幸せをと、…

きょうも、いいネコに出会えた 岩合光昭 ☆☆ 13/10/30

いきつけのランチレストランで手に取った一冊。1枚写真を繰るごと、感覚のあたらしさを感じた。 視点を低く、焦点をきゅっと絞る。ネコの眼でこんなにもかわる、時間のはやさ、光のタッチ、ネコとひとの表情。